1970年3月 京都

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 こうして貴方と静かに語らう時間を持てるだけで幸せなんえ。  ううん、会えるだけで幸せなんえ。 * 「姫扇さんねえさん」  お座敷を終えて帰るタクシーの中、妹分芸妓、富久扇が遠慮がちに話し始めた。 「うちは姫扇さんねえさんが心配どす」 「心配?」  春の夜、車窓に時折見える桜に目を細める姫扇に、富久扇は躊躇いながらも言った。 「津田さまは、妻子のあるお方どす。うち、お座敷の前に聞いてしもたんどす。お茶屋のおかあさんが『ご長男誕生おめでとうございます』言うて祝儀渡してはったのを。姫扇さんねえさん、遊ばれてるだけやないの。うちはそんなんいやなんどす。うちは、姫扇さんねえさんほど上手う舞うねえさんは知りまへん。うちは、姫扇さんねえさんの妹であることが誇らしゅうて誇らしゅうてーー」
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