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こうして貴方と静かに語らう時間を持てるだけで幸せなんえ。
ううん、会えるだけで幸せなんえ。
*
「姫扇さんねえさん」
お座敷を終えて帰るタクシーの中、妹分芸妓、富久扇が遠慮がちに話し始めた。
「うちは姫扇さんねえさんが心配どす」
「心配?」
春の夜、車窓に時折見える桜に目を細める姫扇に、富久扇は躊躇いながらも言った。
「津田さまは、妻子のあるお方どす。うち、お座敷の前に聞いてしもたんどす。お茶屋のおかあさんが『ご長男誕生おめでとうございます』言うて祝儀渡してはったのを。姫扇さんねえさん、遊ばれてるだけやないの。うちはそんなんいやなんどす。うちは、姫扇さんねえさんほど上手う舞うねえさんは知りまへん。うちは、姫扇さんねえさんの妹であることが誇らしゅうて誇らしゅうてーー」
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