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雲の下
早く、大きくなりたかった
だって、ぼくは、家族の中で、一番小さいし、人の多いところにいくと、
すぐ迷子になりそうになるから
「待って…!」
みんな、歩くのが速いし、顔も知らない人たちの中を歩くのは、とてもこわい
焦って、不安で、心細くて、その間にも、追いかける背中は、どんどん遠ざかる
このまま足を止めたら、
誰にも気づかれないまま、この黒い渦にのまれて、消えてしまうんじゃないか
そう、何度も、思った
そんなときは、いつも足がもつれて、転びそうになる
嫌だ、ぼくを忘れないで、おいていかないで
声にならない声をあげながら、顔を床に打ちつけそうになった、そのとき、
ぎりぎりのところで、誰かが、ぼくの腕をつかんだ
「大丈夫か?」
「おにいちゃん!」
強い力で引きあげられ、ぼくは、光の差す方へと、足を踏み出した
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