序章『パンは投げられた』

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『こちら王国騎士団本部。全討伐目標の“ブレイク”、及び白百合 皇の戦闘離脱を確認した。“ブロック”の回収に移行せよ。』 「…りょーかい。っ…」 ──耳の奥で鳴り響く“奴ら”の声に舌打ちを抑えつつ、回収任務とやらを始める。 …と言っても面倒と言う程のものでも無い。魔物の残骸…石ころのようなブロックを視認するだけのことだ。 …この世界での僕達は“ワルキューレ”と呼ばれる体を与えられて戦っている。 …つまりはロボットとかサイボーグとして生き返ったようなものだ。 「…。…。」 ブロックを視界に入れると、その位置情報なんかが奴らに転送される。後はテレポートで勝手に回収してくれる訳だ。 『全てのブロックの座標を確認。任務終了。』 「へいへい…」 普通ならワルキューレもブロックやテントと一緒に本部に転送されるものだが…何か気持ち悪いので僕は断っている。 機械の体なのでメンテナンスは必要だが、本部に戻らなきゃ出来ない訳でも無いしな。 『こちら本部、観測される“フォトン”の数値に異常が見られる。状況を報告せよ。』 …はー。やっと帰れると思ったのに… 「…こちらリリィゼロ。リリィワンの範囲攻撃に依り“フラッシュ”が発生した。 疲れたから僕は帰る。後は他の人間にやらせてくれ。どうぞ?」 『こちら本部、リリィ0の魔力消耗を確認。手空きの者にフォトンの調整を要請する。』 「…了解した。後任には『ご苦労』と伝えて置いてくれ♪」 『通信終了。』 ザザッ。 …それにしても、戦いの爪痕が『光』とは。いつもぴかぴかと目障りなあいつらしいな…。 フラッシュ。つまり閃光だ。タッドルにある『天気』と言えばこれくらいだろう。 “フォトン”の異常発光。 …さっきの一撃(と言うよりただの足踏みだったが)で周囲のフォトンが励起し、辺りが白く輝いている…まぁ綺麗ではあるな。 …この星にはフォトンと呼ばれるものがある。 光子…つまりは光る空気だ。蕎麦じゃない。 フォトンは通常時は無色透明で、そこは地球の空気と変わらない。吸っても体に害は無いが、刺激や魔力が加わると光るので時々めんどくさい。 …刺激と言っても、ちょっとやそっとの刺激じゃ駄目だ。マッチに塗られているような火薬が空気中にあると考えろ。 空気をいくら殴っても摩擦は生じないだろう?あったとしても火は付かない。そんなものだ。 ただ、空気自体を振動させたり、熱気や冷気、電気など。直接空気にショックを与えれば発光すると言う訳だ。 与えるショックが大きければ強く光る。別に戦場が光ってても問題はそんなに無いが…態々ぴかぴかした戦場で戦う奴もいないからな。 「ふー…」 …やっと1人になれた。 …全く気味の悪い相棒だ。 実力はほぼ互角。言わば最強の()と、最強の()のような組み合わせ。 …性能が同じなのだから、後は力の使い方でしか戦いようが無い。 …それにしたってあいつはおかし過ぎやしないか? 仮令あいつに勝利して殺したとしても、数秒後には何事も無かったかのように復活する。 ワルキューレには自己修復機能が搭載されているが、あれはそんな生易しいものじゃない。 あいつは『回復魔法』だとか言ってるが…奴の構築魔法。あれと同じものに思える。 …いや…あれと全く同じものを僕は知っている。 仮令粉々に砕いたとしても元通りに復活する怪物…“霧の魔物”だ。 …まぁ、あれがミスティックかどうかは恐らく確かめようが無いだろう。 何せ、僕らの体は生前とは材質が違っているんだから。…まぁ、同じ人間とは思えないってことだけは確かだね。 …尤も、今は僕もあいつも、ワルキューレって言う機械人間なんだから、何を以て『人間』とするか…と言うのは実に曖昧になったものだが。
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