14人が本棚に入れています
本棚に追加
「…はぁ。」
戦いには困らないので、この世界は割と気に入ってはいるのだが…娯楽は全くと言って良い程無いのが難点だな…。
(厳密に言えば、ワルキューレ向けの地球産コンテンツはあったりする。今いるのはPXRON地区…通称“地球街”と呼ばれる商店街みたいなところだしな。)
…まぁそもそも、長居するつもりも無いのだが。
記憶を取り戻してさっさと前世に帰る。…未練なんてもう沢山だからな…。
「…はー…。」
…従って、今日も特に目的も無く街をブラつくと言うことになる。
「…ぁむ。むぐ、もふ…。」
ただ歩くのも暇なので、食事を摂りながら歩く。
「おい聞いたか?ADASNA地区が魔物に襲われたって…」
「ホントかよ。…はっ、ワルキューレ様もアテにならねぇな…」
…フン。
──聞こえて来る会話は全て日本語だ。中には角が生えていたり、馬みたいな人種もいるが全員が同じ言語を話している…ように聞こえる。
少なくとも、僕が知らない言語は大概固有名詞ぐらいしか出て来ない。
…そもそも、ワルキューレと言うのは北欧神話に登場する単語だが。
ここは北欧でも、ましてや地球でも無い。更に言えば銀河系の何処かの惑星と言う訳でも無い。完全な異世界…まぁ、ヴァルハラとでもしておこう。
…つまり、僕のこの機械の体が現実を錯覚させている訳だ。目や耳に入った言葉は[地球の言語]として翻訳されて脳に伝わる。
視覚だけじゃない。僕らは味覚や触覚、あらゆる感覚を誤魔化して日々を過ごしている。
この世界での僕は得体の知れない言語を喋り、意味不明なジェスチャーをしているのだろうが、僕がそれを認識することは無い。
…つまり、ここは地球の常識が通用しない全くの異世界と言う話だな。
『…。』
毎日のようにこうして歩いているからだろう。屋台の女がこちらにパンを見せ、僕は無言で首を振る。
女は『そんなものを好むかね…』と言うような顔でげんなりする。
因みに、僕が食べているのは先程の魔物の死骸──ブロックを加工して作られた合成食料だ。
普段は巾着袋のような容器に入れて腰に提げている。
この容器は地球のゴム…ラバーとか言われるのと似た材質で出来ており、中にはゼリー状の合成食を入れてペットボトルのようにキャップを付けてある。
この容器はクーラーにもなっており、キャップは冷蔵と冷凍を切り替えるスイッチも兼ねている。
味は別に美味くも無いが、凍らせれば棒アイスのようにガリガリと齧って直ぐに食べられる。ゼリー状にすれば戦闘にも多少耐えられるから、これさえあれば仮令遭難しても先ず死ぬ心配は無くなる。…ま、お守りみたいなもんだな。
少女「コレ…。」
パン屋の女「ふーん?」
「ナニ…?」
「いや別に?」
…不穏な気配を感じて振り向くと、さっきの屋台に客が来ているようだった。…あれは獣人だか亜人だか言う人種だな。
ここには色んな種族がいる。
常人、亜人、新人…そして僕達超人──ワルキューレだ。
──それから“怪人”って奴らもいるな。
常人と新人は地球人に近い姿をしている。でも常人は地球人よりは獣っぽいように思う。亜人はそれをもっと濃くした感じ。
新人はまぁ…僕の元いた世界で言う、魔法使いみたいなものかな。元々この世界には魔法が無かったらしいからな。
人間に出来ないことはロボット(僕達)にも真似出来ないって訳だ。
“新人”と言う名前なのに先輩なのだ。
…そう言う訳であんまり遭遇したくないのが新人と言う連中だ。
怪人はまぁ…どちらかと言えば魔物に近い奴らってところかな。
最初のコメントを投稿しよう!