序章『パンは投げられた』

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「タダイマ…パパ。」 「…ぁあリズ、お帰……キミ達は?」 「…えっと、さっきそこで知り合ったみたいなんですけど…」 「パン、買ッテモラッタ。パーティー♪」 「まぁ、そう言うことだ。」 「ええ…?」 仲が良くて微笑ましいけど、お父さんが困ってる…まぁそうなるよね。♪ 「…ぁはは、すみませんお邪魔しちゃって…」 「いや、構わないよ。…お客さん…と言うことはキミ達もしかしてワルキューレ?」 「まぁ…はい?」 …ぁあそうか。この星には家があること自体珍しいから、『客』と言う概念も無いのかな。 「是非ゆっくりして行ってくれっ!いやぁ…ワルキューレに会えるなんて光栄だぁ…!」 「…?」 「ほら王子、挨拶しなきゃっ。」 「はいはい。ワルキューレ1号と3号だ。」 「え、2号は…?じゃなくてちゃんと自己紹介しようよ~…。」 「断る。…」 ぶっきら棒に言い放ち、視界にリズが入ってそちらに付いて行く王子。…もしかして王子の方がリズに懐いてる…? 「…あの子何時もあんな感じで…すみません…」 何でお前が保護者面してんだ。…まぁ良いか。 「いや…ぁあ、それよりキミ達の星では、お客さんには何かをしてあげるのが礼儀なんだよね?」 「いえそんな、ワルキューレと言ってもそんな…何かをして戴く程の者でも無いですし…。」 「おい、僕は違うからな?因みに何があるんだ。」 「パン…とかかな…。」 「…聞かなかったことにしよう。」 そもそも地球の食事が贅沢過ぎるんだが…期待を裏切られると言うのもあれだな…。 「あ、王子飲み物いる?♪」 「いる。…て言うかテメェ、どんだけでかい水筒持ち歩いてんだ。」 バズーカ背負ってんのかと思った。 「…ぁはは♪」 どうせまた紅茶だろう…。…まぁ良いや。コーンポタージュでも飲もう。頬に触れ、指で歯を押す。味覚設定の簡易書き換えだ。 博士「ぁあ、水ならあるよ?それならいくらでも出せる♪」 「ウォーターメーカーか…へぇ、そう言うのあったんだ。」 まぁ、地球産ワルキューレの自宅には水道があるから別に要らないんだけど。…新しい家電と言うのは妙に気になってしまうものだ。 「1日1回は故障しちゃうんだけどね…。」 「ふん。…さてはあんた科学者か、技術者か。」 「『水』と言うのは便利なものだね。“パウダー”を溶かせば合成食の代わりになるし、飲むのは食べるのより手間が少ない。氷やゼリーと形を変えるのも容易だ。 タドルスはもっと君達の文化を取り入れるべきだよ。」 「…はー。水を飲むタッドル人にロクなのはいなさそうだ。」 博士「え?」 「水の無い惑星で水を飲もうなんて人間は余程の変人だってことだよ。」 …思えば、『家に住んでいる』と言う時点で変人だと覚悟するべきだった。 これだから『隠者』とか『信者』だとか言われるんだ。 「…。」 自宅兼仕事場って奴か。ちょっとはコードやらデバイス類を片付けたらどうなんだ。ええ? …棚を見れば、ガラスの向こうにオブジェが並んでいるのが分かる。水や水蒸気の力で動くインテリアのようなものだな。 分かりやすいので言えば鹿威しだな。…音がしないところを見ると防音棚か。しかもこの棚自体がウォーターメーカーなのか…凝ってるなぁ。 「…」 後ろを振り向けば、皇がこのオブジェの持ち主であろう男と会話をしている。眼鏡に照明(フォトン)が反射して、男の表情は少し分かりにくい。 …まぁ、表情を読みたければ視力(ピント)を調節するだけだがな。 …それにしてもリスの母親はどこだ? 「お父さんってもしかして、味覚機能の開発とかしています?」 「…良く分かったね。と言っても開発者じゃあ無い。便利だから人間(タドルス)にも搭載する研究をしてる…ってところかな。」 僕「…」 「あ、ところでお父さんは紅茶派ですか?コーヒー派ですか?」 「え?僕?コーヒー派かなぁ…?」 …フッ。 「ってことはあんたサイボーグか…まるでSFだな。」 「ワルキューレか…まぁ似たようなものかも知れないね。」 「…。」 サイボーグ(機械人間)がどうやらワルキューレと翻訳されたらしい。…つまりは今の僕のことだな。 吐いた唾が掛かるとは、何とも格好が悪いね…。
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