序章『パンは投げられた』

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「ウー…ショ。」 リスがパンの入った籠をテーブルの上に置く。…ちょっと土が付いている気がする。 「オー、コ?」 リスが僕にパンを突き出す。…やっぱり土が付いている。…はぁ…。 「…ぁあ、僕の名前は王子だ。パンをありがとう、いただきます。」 「ウー♪」 …前にもこんなことがあったか…? 「…。」 指で土を落とす。記憶は出て来ない。 「はい、王子♪ あ、お父さんリズには…」 水筒の中身をコップに移して皆に配る皇。水筒の中にコップも入ってるらしい。 「…ぁあ、その子にも味覚変更機能は搭載してあるよ。」 「じゃあリズも…はい♪」 「リスー。」 「えぇ…?」 博士「え リス…?」 「…あ、リスって動物がボク達の星にいて、この子に似てるなって…すみません…。」 「リ ス!♪」 「…フ♪」 まさか本名より気に入るとはな… 「じゃあえっと、かんぱーい♪ …あれ…?」 『…』 意外に…いや、当然か。誰にも合わせて貰えずに皇が空振りした。 「…カンパァーイ?」 「地球の文化かい?詳しく頼むよ♪」 「…ぁあえっと、乾杯って言ってコップを合わせるんですけど…ほら王子。」 「…。(カツッ。)」 仕方無いから合わせてやる。早く食べよう。 …コップの中身は水。 無色透明、無味無臭だ。だが、これをワルキューレが口にすると違った味に感じる。 「…♪」 「はー…♪」 僕はコーンポタージュ。こいつは紅茶と言った具合いにな。他にはあの羊羹みたいな色の合成食。あれの液体Ver.でも同じことが出来る。 無味無臭のガソリン(エネルギー)を飲むようなものだ。この星には料理が少ないから、レシピをデータとしてインターネットのような場所に記録・共有し、舌先に“味”を発生させて気分だけ味わう。 …まぁ、地球産ワルキューレ達が残した置き土産ってやつだな。 「…」 この星のパン。通称コテパン。 …フランスパンにハチミツと黒糖を練り込んで焼き上げた固めのトーストって感じ。ガリガリした食感で兎に角甘い。美味い。 コテと言うのはこの世界で多く採れる粘土のような土だ。栄養豊富で、きな粉みたいな味がする。 このコテと、蟹味噌のような食材を混ぜて焼くとパンのように膨らむ訳だ。 「ぁ、お父さん。ゼリー水とかあります?」 「あぁ…あるよ?」 「リズ、ちょっとそのパン貸して?」 「ウ…?」 「食べないから♪」 皇は博士からゼリー水を受け取り、リスのパンにそれを塗っている。 「はいリズ♪『イチゴ』って言って食べてご覧?♪」 「イチゴ?…ウー!♪」 …成程な。ジャムの代わりって訳だ。相変わらず変なことばかり思い付く。凄いのか凄くないのか分からない奴だ。 …レモンっと。 「んむ。」 …美味い。 皇「ぁ~…焦げた感じが良い…♪」 焦げ味って…やっぱり変な奴だ。 「ング…ンム…フー…ハグハグッ…♪」 「…ふっ♪」 擬似ジャムパンが気に入ったのか、夢中で頬張るリズを見て王子が吹き出している♪ 「?」 パンをモグモグしたままボク達を交互に見るものだから本当にリスにしか見えなくなってしまう♪ 「ほら、水飲め。あと食べ滓付いてるぞ。」 「ウー…♪」 「…。」 王子の顔に「良いからさっさと口元を拭え」と書いてあるような気がする。…ぁはは♪まるで親子か兄妹だね…♪
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