序章『パンは投げられた』

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…エマール博士のお宅を後にして。 「随分仲良かったね♪ほんとに初対面?」 …姿が見えなくなるまでリズが「また来て」と飛び跳ねてて、ちょっと帰るのが辛かった…♪ 「初対面だよ。あいつがおかしいんだ。」 「おかしいって…」 「ここの連中に比べれば変人だろ。」 「……。 まぁでも、良い妹が出来たんじゃない?♪」 「…妹じゃない。ペットだ。」 「うん♪良いよねペット☆」 「…お前と話してると疲れる…。」 「えー…?ごめんね…?」 「…お前、天然って言われないか?」 「え?そうかなぁ?」 ──ド天然だろ…。── 「…はー。」 ──暇だ…。仕事が無い。 …そもそも先日魔物を狩ってたのだって、本来の仕事では無いのだ。 「ぅあー…ぁぁ…。」 頭の中で何かがチリチリと燃えている感じ。…戦ってる間はそれが無くなる。 「…っ。」 脳内麻薬ならぬ火薬か。そんなものが頭に流れ出しているような気がする。 苛立ちが火花のように散り、歯を食い縛らせる。ガリッとパンが砕け、べったりとした甘さが口の中に広がる…。 …まぁ出ないものは仕様が無いか。滅ぼしたところで楽しみが消えるだけだしな。 何でも、僕が怪人を片っ端から倒して回ってるお陰で連中が悪さをしなくなった…とか言う噂もあるらしいからな。全く面白くない話だ…。 「…。」 馬鹿みたいにパンを咥え、PXRON地区を見回す。 …誰も彼もが物陰に隠れるようにして生きている。もしくは、全てを諦めて生命維持装置に繋がれる(路上で寝たきりになる)か…。 …地球にもホームレスと言う連中がいたハズだが、ここの人間は寧ろそれが当たり前だ。中には家に住んでないだけでちゃんと働いている奴もいるが…やはり無気力な者が多い。 …この星の人間は空を見上げない。 一日中同じ空なのだから当然かも知れないが…いや、当然だとは思えないな。 …人間ってものは、空を見上げるだけでも笑ったり泣いたり出来るものだろう?ここの連中はそれさえもしないんだ。 …全く、こんな奴らを守ろうと頑張ってるワルキューレって奴らの気が知れないね。 …いや、一番気に食わないのはタッドル人の子供だ。…こんなに美味いパンがあるってのに、パン屋にやって来る子供は1人もいない。 …やっぱりあいつは変なガキだ。高がパンであそこまで喜べる。…あの男装女と同類かもな。 「…。」 ──まただ。また何かを探してる。 …頭の中で火の粉が舞い、僕の夢路が熱に揺られる。 …どこだ?僕のいるべき楽園はどこにあるんだ。
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