序章『パンは投げられた』

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…出撃前のこの時間。…この空気が僕は嫌いだ。 ──(死後)(生前)も、出撃する際には必ず2人以上と決められ、この息苦しい時間を過ごして来た。 …のだが。どう言う訳か……僕の今の相棒は出撃前──首を絞める癖があるのだ。 …考えられるか?これから自分が死ぬかも知れないってのに、隣で相棒が自分で自分の首を絞めてるんだぜ?…呆れて物も言えないとはこのことだ。 見てるだけで息苦しくてむせてしまいそうだ。 …最初は何かのパフォーマンスか、自棄でやっているのかと思っていたがどうやら違うらしい。 奴は出撃前に必ず、右手で自分の首を弱く掴み、その後にその手首を左手で強く抑える。 …そうして、奴は何時もの笑顔を消して戦場へと向かうのだ。 …要は気を引き締めるとか、落ち着かせる為にする儀式だろう。映画なんかで兵士が銃を弄ってたりするあれだ。 …それにしたって首絞めとは…。何とも根暗なパートナーと出会ってしまったものだ。不幸とか陰気とかが伝染りそうだよ…はぁ。 「…ふふ♪」 「…あ?」 …儀式を終えたこいつが笑うとは珍しい。これは何かのジンクスだろうか? 「またそれやってるなーって思って♪」 「…は?…それ?」 「王子って出撃前には物凄い神経質になるよね?靴下のたるみをきゅっと締めて、衣装のシワを伸ばしてボタンをちゃんと留めて、それから前髪を弄る。」 「…。」 そう言えばそうかも知れない。癖を全部指摘されたのと、似たようなことを考えていたので言葉に詰まる。 「…戦場は言わば舞台だ。役者が身嗜みを疎かにしてどうするよ。」 「舞台って…。」 「知ってるか?♪20世紀のフランスには“グラン・ギニョール”って劇場が…♪」「わぁそれ止めてっ!ボクそう言うの苦手だってばっ!!」 「くっくくっ…♪」 「もぅ~…」 …何とも気の抜ける共演者だが。舞台(戦場)の幕は開き、テントの中に光が溢れる…。 「…行くぞ相棒。」 「ん、了解…相棒♪」 相変わらず手首を絞めているが…頼れる相棒には違い無い。さて…惨劇の始まりと行こうじゃないか。
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