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──TC8G14。
今日は定期的に与えられる、“街”の外で魔物を狩る任務だ。
ミズガルズの壁のお陰で街には魔物は侵入しない(ことがほとんどだ)が、街の外には地球人口より遥かに多い数の魔物がウジャウジャいる。
これらは街の外に住む動物達に感染し、少しずつ数を増やしている。それが積もり積もってこんな莫大な数値となっているのだ。
…最近、戦闘前の待機時間に身嗜みを整えるのが早くなった気がする。つまり、大分暇なのだ。
僕は皇に相談し、テント内でも出来る暇潰しは無いかと聞いてみた。
…返って来た答えは、タッドル星では天体観測が出来ないので。ワープ観測は出来るのだけど。と言うものだった。
──成程って、次回からしか出来ないやつじゃねえかとツッコミを入れ。
──僕は仕方無く、この惑星の置かれた状況について考察して時間を潰すことになったのだった…。
今から数十年前、数光年先を飛ぶムサシがワープ観測に依り観測された。
タッドル星は彗星のように直進している惑星なので、数年後に両者が激突することが予測され、大急ぎで異世界から勇者を掻き集めて今に至る…と言う訳だ。
詳細は公開されていないが、この星には地球で言うところのスーパーコンピューターがあるらしく、そのスパコンが今回のムサシ接近も予測したと言うことだ。
皇の勘じゃ、このスパコンは“未来観測”は出来ないとのことだ。時空を超えて観測することは出来るが、未来か過去かは選べない。
…僕としても合点の行く話ではあった。皇が来るまでの1ヶ月間、僕は暴れに暴れ、それを誰も止めることが出来なかった為に僕はまるで逮捕された犯罪者のような扱いを受けて来た。
皇はまぁムカつく奴だが、僕に対する抑止力としてはベストなカードだろう。そもそもスパコンが僕の暴走を予測出来てない時点で高が知れてるって奴だ。…自分で言うことじゃないけどな。
──等と考えている内に作戦開始時刻となった。テントの外は騎士団本部から戦闘指定区域へと変わっているハズだ。
「ほれ、とっとと終わらすぞ。今日は何だ?」
「いや、急かされてもそんなに毎日イベント思い付かないよ…♪
あ、取り敢えずリズかミエルちゃん家でこの前みたいに楽器作ったり演奏会したりしてみる?☆」
「そうだな…
──あ、ミエルん家に行くなら飯はこっちから提案させてくれ。コテパンに食泥とお前のシナモンを振り掛ける。」
「おお〜美味しそ〜☆」
「じゃあ行くぞ。」
「はいはい…☆」
「皇、槍。」
「了解っ」
構築魔法で大槍を作り出しながら、ボクは相棒の劇的ビフォーアフターを感じていた…♪
「おらっ!!はぁっ!!」
「ふっ!やぁっ!」
ボクの命を狙うことも無く、業務的に魔物との戦闘を熟す王子。…前は任務が娯楽で日常が業務って感じに見えたのに、見事に逆転している。
「ふふ…☆」
「何戦場でニヤニヤしてんだ、気持ち悪い。」
「うぐ」
口が悪いのは相変わらずだけどね…♪
──PXRON地区、第1地球公園にて。
「タンタンズタタン!☆」
ドラム、リス。
「フーフー♪ルフフー☆」
パンパイプ、ミエル。
「…♪」
ベース、皇。
「ふっ…♪太陽はギラギラ眩しい〜♪けど、僕はそれよりも輝いてキミのハートを射止めるよ、ぁあああああ〜!!!!」
そしてギター、ボーカル、僕。
──期せずして発足した4ピースバンド、アンリミテッドスカイ。
ボクのベースと王子のギターはボクと王子のルリーアで作ったものだ。どちらも演奏はしたことが無いので共同制作となった。
王子は物凄い嫌がったけど、演奏会をやるならどうしてもギターを弾きたい!弾いたこと無いけど。と我が儘を言い出したので仕方無くそうなった。
でも、バンドって良いものだね…♪生前も楽器はやってたけど、どれもソロでの演奏だったからこう言うのは実に新鮮だ…☆
「おいリス、お前自由にやり過ぎ。」
「ウッ?」
い、いきなりバンドに亀裂が…!!
「…て言うか、それを言うなら王子もそうじゃない?シャウトのとこなんか2人ともびっくりして演奏止めてたし。」
「ソロパートだよ。」
うーん…この理不尽リーダー。大丈夫かこのバンド…
「でも皆凄いよ!♪」
王子やボクも含めて演奏は皆素人だ。TVで軽く学習しただけ。
「でもこれずるくね?
ルリーアで出来てるから、“こう言う音を出したい”って思ったら勝手に出るし…」
「細かいことは気にしない!♪気にしなーい!♪」
「細かいか?むぅ…」
──バンドとはままならないものだ。…だが、悪くは無いな…──
『…ふぅ。(フゥー♪)』
同じ曲を、どこが悪いここはこうするべきだ、こうしたいと折り合いを付けながら最高の1曲に仕上げて行く…♪
「バンドって良いもんだな…」
──そして王子から最高の一言が…!!
「おい、観客集めろ。」
「いや、無理でしょ…2時間やって観客がワルキューレ1人ってかなり無理ゲだよ。」
「何でだっ!!」
「ウー!」「ルフー!」
「…やっぱあれじゃないかな、やる方は楽しくても見る方はそうでもないとか。いだっ!!」
「…やっぱり文化の違いじゃないかなー。」
痛まない頬を擦りながら答えを変えることにする。
「文化ねぇ…」
「地球で初めて行われたライブだってこんなもんだったんじゃないかな?
人間、見慣れないものを受け入れるには相当な変化が必要だろうからね。」
「良いねぇ…じゃ、ここの歴史ってやつを変えてやろうじゃねぇか♪
“伝説”を作るぞっ!!」
「ウ!?」「ルフー!?」
…あ、面倒臭い方向に転んじゃった…。
…ま、何時かどんな艱難辛苦も笑えるような“明日”ってやつが来るのかもだけどね…♪
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