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あなたは四季の中で梅雨が一番キライって言う。でもねボクは好きだよ。毎日雨でも、ジメジメしてても、太陽のようなあなたの笑顔を見れば、それだけで心がカラリと晴れるから。 あなたと出会ってちょうど10年。昔のことはすべて忘れたと言うけれど、ボクはちゃんと覚えてるよ。幼いボクにとってあまりにも衝撃的な光景は今でも目に焼きついて離れようとはしない。 薄暗い地下牢に長い間閉じ込められていたあなた。全裸で赤い拘束台に座らせられ、四肢の自由を奪われ囚われていた。目蓋は赤く腫れ上がり、ぷくっと勃ち上がったピンク色の乳首には指に嵌めるはずだった指輪がぶら下がっていた。 【役立たずのΩ】 父はあなたのことをそう呼んでいた。自分中心に世の中が回ってると豪語していた父。最低最悪の男だった。金と名声にものをいわせ、たくさんのΩを番にし側に侍らせハーレムを築いていた父。Ωは所詮使い捨ての駒。飽きればゴミのように捨て、若くて美しい新たなΩを買う。父は、珍しい男のΩの噂を聞き付け、大金をはたいてそのΩを買い求めた。それがあなた。でもあなたは、父に対し、激しい拒絶反応を示した。だって、それもそのはず。あなたの細い指に絡まった赤い糸は、父でなくボクへと繋がっていたから。目を覆うような酷い折檻を受けようが、辱しめを受けようが、あなたは決して屈しなかった。地下牢から脱け出したあなたは、戸籍がなくてそれと呼ばれていたボクを生き地獄から救ってくれた。永原未来。あなたが付けてくれた名前はボクにとって大切な宝物。雨の日は特に甘い匂いがする。あなたが放つ匂いはまるで砂糖菓子のようだ。早く大人になって、今まで一度も発情期を迎えていないあなたを抱いて、そして項を噛み、自分のモノにするんだそう心に誓った。 「拓真さん・・・そろそろ未来が帰ってくるから・・・あっ・・・ッン・・・」 自宅アパートの玄関を開けると、家中にあなたの嬌声と欲情にまみれた男の声が響いていた。三日前男から結婚することを告げられた。父のもとを逃げ出して十年。主治医だった男の父親の自宅で家政夫とベビーシッターとして働き、あなたはボクを育ててくれた。高校に進学出来たのもあなたが懸命に働いてくれたから。 「もう若くない僕を彼は愛してくれる」 「若くないって、サクラまだ36だろ⁉」 「だって拓真さんみたいな若い子が、まさか10才も年上の僕にプロポーズしてくるとは誰だって思わないもの」 「俺はサクラじゃないとだめなんだ」 「未来の前で・・・そんな、やだ、恥ずかしい」 耳まで真っ赤になりながら、幸せいっぱいにはにかんで、男と見詰め合うあなたが憎たらしかった。なぜボクじゃなくソイツなのか。ボクが二十にまるまであと4年。待ってて欲しかったのに。
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