球体関節人形

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 その少女は、西側の昇降口から入ってすぐの階段を上った、三階にある美術室にいる。  肌は透き通るように白く滑らかで、栗色のまっすぐな髪は肩より少し長い。一直線に切り揃えられた前髪の下にある硝子の瞳は青みがかかった深い灰色で、レースのようにしなやかな、長い睫に縁取られていた。    僅かに開いた唇は小さく、赤いバラの花びらを思わせる。生徒たちから時代遅れだと評判の悪い制服も、彼女にはとてもよく似合っていた。  僕はそっと彼女の隣に座り、窓から見える夕陽を眺めた。  うっすらと微笑む彼女の唇からは、鳥のさえずりに似た、微かなため息だけが聞こえる。それだけでもう十分で、僕たちのあいだに言葉はいらない。夕陽に照らされた彼女の横顔は、あどけない少女にも、艶やかな大人の女性にも見えた。  そう、彼女は非の打ちどころがなく美しかった。でもこの学校で僕のほかに、彼女に本気で恋をしている生徒がたくさんいることを知っている。  それは男子に限らない。彼女の魅力は、性別の枠を易々と越える。彼女に会うため、美術部の部活動も終了した夜遅くに、ひっそりと美術室を訪れる者が後を絶たない。男子生徒も、女子生徒も。  しかし彼女の前に立つと、みな体の中心を鋭い釘で打たれたように立ちすくんだ。彼女の体は目に見えない神聖なヴェールに包まれ、誰ひとり、その手に触れることさえできなかった。もちろん、僕も。  そんな彼女に、ある日不幸が訪れた。  それは、避けることのできない事故だった。古い大きなイーゼルが突然倒れ、それに驚き飛び退いた女子生徒の絵筆が、彼女の顔に刺さったのだ。
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