使命

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使命

 あれからもう五年になる。最初こそ魂の場所がわからず島中を駆けずり回ったこともあったけれど、二年もすれば大体どこだか見当がつくようになった。  言えば新聞は届けてくれるので、世の中のことは何となくわかる。いい暇潰しにもなるので、困ることと言えば食事が冷めてしまうことぐらいだ。  それから、敏司は思いもよらなかった自分の才能に出会った。暇潰しに始めた裁縫が、中々のものだったのだ。最初は足りなくなったぞうきんを、学校で習ったものを思い出しながら縫ってみた。これが案外楽しい。無心に針を動かすのは没頭できて暇潰しにもなった。  それから敏司は裁縫の本と布を要求し、今や自分の着物でさえ縫えるようになっている。敏司はいつか自分で選んだ布で、みちびき様の着物を仕立てるのが夢になっていた。  その日も、いつものように何かしら縫っていた時だった。ふと作業を中断すれば、わずかながら地面が揺れているように感じる。 「どうした、敏司」 「いえ、地震かと」  暫くして落ち着きはしたが、作業に戻る気は失せた。手早く片づけると、万一のためにみちびき様の側に居ようとしたその瞬間だった。グラリと先ほどとは格段に違う揺れが二人を襲う。 「うわあ!」  敏司はふらつき、床に手をつく。みちびき様を見れば、不安そうにこちらを見ていた。敏司は一気に駆け寄り、みちびき様の体に覆いかぶさる。
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