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婿取り
敏司が波流島に来たのは、小学四年に進級した時だった。寝たきりの祖父の介護のため、関東から家族三人引っ越してきたのだ。
しかしここ最近、敏司はある事に悩んでいた。
チリン……、チリン……。
あぁ、またあの音か。そんなことを思いながら敏司は意識を浮上させる。壁掛け時計は、午前3時を指していた。
ここ最近の睡眠不足の原因。それがこの鈴の音だった。けして大きいとは言えないその音に、どうも目が覚めてしまう。
「早く終わんないかなぁ」
布団を頭からかぶり、眠ってしまおうと目を閉じる。
チリン……、チリン……。
今日は一段と音が大きい気がする。家の前の道を歩いているのだろうか?
チリン……、チリン……。……、……。
「……、あれ?」
突然、鈴の音が止んだ。しかもそれは敏司の家の前で止まったようだった。
「……」
怖い、けれども気になってしまう。確かめようか、それともやめておこうか。そんなことを考えているうちに、突然尿意が襲ってきた。
「ん……、ん……」
トイレは玄関の前を通らなくてはいけない。しかも磨りガラスなので人がいればすぐバレてしまう。しかし、布団で漏らすなんて恥ずかしい。怖くてトイレに行けなかったなんて、きっと笑われてしまうだろう。
「……、よし」
敏司はガバリと掛け布団をまくった。それから意を決して、トイレへと向かうために襖をゆっくりと引いた。
祖父の家は平屋の木造建築で、歩けばギシリと嫌な音がする。足音をたてないように、緩慢な動きで廊下を移動していった。
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