歴史は巡る

6/6
33人が本棚に入れています
本棚に追加
/41ページ
 勝は立ち上がって思わず後ろを向いた。目頭が熱かった。今まで、こんな風に誰かから認められたことはあっただろうか。それも、父と同じくらいの年代の人間から。 (そうか……俺は、意地を張っていたんだ……)  張り詰めていた空気が抜けたような、穏やかな満足感が胸に溢れた。ごまかすように素早く目元を指で拭った勝は、振り返ると口早に告げる。 「実際に住む人や使う人が安心して使えない建物なんて、いくら見た目が良くても欠陥品です! 建設に携わる人間なら、国の基準の一回りも二回りも上を行くつもりでないと!」  その答えを聞いて、澤部は満足するように深く頷いた。 「ウム。会社にとって試験研究費の負担は大きい。だが良い物を作れば、消費者は必ず応えてくれる。それを忘れてはいけない」 「自分が社長になったら、耐震技術の研究に一層力を入れようと思います」 「耐震だけではない。関東と阪神の大震災は火災、東日本では津波が被害を大きくした。建築は多角的にアプローチしなくてはいけないから難しいな」 「確かに……」  襲いくる炎、煙、津波。地震は揺れさえ凌げればなんとかなるが、直接命を奪おうとするそれらはなんと恐ろしいことだろう。そして、災害を防げるのは人間ではなく建造物だけなのだ。 「この国の歴史を紐解けば、常に大きな地震や火災が付きものであることがわかる。残念だが、新しい時代も必ず新たな災害が来るだろう。しかし、それを乗り越えていくのも我々だ」 「俺、もっと勉強します。自分にできることをしようと思います」  あれだけいい加減だった勝が素直に頷く姿を見て、澤部はニコリと笑った。 「さて、わかってもらえたところで次の時代に飛ぼうか」  澤部の手を取ろうとして、ふと勝は思い出したことがあった。 「そういえばですけど……今は伸銅場はないですよね? 潰れたってことですか?」 「……時期が悪かったのだよ。その件の説明もしよう」  勝はすっかり時間航行に慣れて、澤部に連れられ次の時間に飛ぶ。
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!