歴史は巡る

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「正直に言います、澤部さん。俺は……設計で見映えのことばかり考えてました。どうすれば注目を集められるような凄い建物を作れるかって……本当にそればっかり。耐震は国で決められた基準を守ればそれでいいって……」  震える声で勝は告白した。いつも計算が面倒だと思っていたのだ。もっとオシャレで斬新な建物を作りたい。コンテストで入賞したい。そのためには国の作った基準など厄介でしかないと。  流石に東日本大震災の後には少し考えを改めたが、それでも勝の承認欲求は消えなかった。とにかく有名になりたかったのだ。周りから親の七光だと思われたくなかった。  ……何より、父に認めて貰いたかったのだ。 『現場現場現場と回されて今度は広報……いい加減設計とかさせてくれよ! 俺は設計士なんだぞ!』 『仕事もろくにわかっていない半人前がなにを言ってるんだ! お前みたいな未熟なヤツに大事な設計を任せられる訳ないだろう!』 『俺は学科でもトップだったんだぞ! 何が不満なんだよ! このわからず屋!!』  何度言い合いをしただろう。だが、今なら父の言いたかったことが少しわかる気がする。瓦礫の下からチラリと覗いた白い腕が目に焼き付いた。もし自分の建設した建物で同じことが起こったら…… 「違う……俺は、間違ってない……間違ってなんか……」  頭ではわかっていても心は認められず、勝は噛みしめるように呟いた。しかし、握りしめた拳は今もわなないている。その震えは一体なにに対してだというのか。素直になれない己自身か、今まで時間がムダになる怒りか。 「……間違いという言い方は好きではないな」  澤部は顎を撫でながら、無数の光が瞬くはるか遠くを見つめる。憔悴する勝に対し、その表情はどこまでも落ち着いていた。 「君は遠回りをしていたんだ。そして今、答えにたどり着いた。それでいいじゃないか」 「遠回り……?」 「人生とは、回り道の連続だよ。過去を恥じることも気に病むこともない。君の努力は何一つ間違ってなどいない。未来に活かせばいいだけだ」 「……!」
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