5. 男の道、女の道

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 須賀原はベッドであぐら座りしていた。 「もしかしたら、それは刑務官の温情かもしれない」 「おんじょう?」 「ここに入る時、説明していた。妊婦は死刑の執行が停止される、と」 「死刑が!」  江波は首をのばした。忘れていた事を思い出した。  はっはっはっ、高蔵が笑った。 「昔、そんな映画がありましたね。確か、ソフィア・ローレンが主演だった」  それは、日本公開が1964年、『昨日、今日、明日』と題された作品。3話構成のオムニバスで、その中の『ナポリのアデリーナ』が妊婦の物語だった。  イタリアには、妊婦は出産後半年まで逮捕されない・・・と言う法律があった。それを逆手に取り、妊娠と出産を繰り返して逮捕を免れて、とうとう7人の子持ちに。が、夫が体調不良で妊娠に失敗。ついに逮捕されてしまい、子連れで刑務所へ・・・そんなコメディである。  きゃははは、江波は笑った。  嵐も真顔で頷いた。 「なるほど、妊娠と出産を繰り返して、死刑の執行停止を続けられる訳だ」 「刑務所で育児ができるの?」 「出産後、半年以内に死刑執行が法律の前提だ。ちゃんと里親は手配してくれるだろう」 「自分の手で育てられないんだ・・・育てた事、無いけど」  江波は枕を抱いて、ため息をついた。  妊娠すれば、1年以上は生き延びることができる。女だけの特典だ。いや、腹の中の子供が生きる権利を認めた判例である。ただ、付随的に、死刑囚の母親の刑執行が延期されるだけ。 「問題は、誰が父親になるか・・・だね」  ぼそり、江波はつぶやいた。 「そうか・・・そうだな。刑の執行が停止されるのは母親だけだ。男の方は延期されない。めでたく妊ませられても、子供の顔を見る事はかなわない」  高蔵はうめく。
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