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6. 夕張炭鉱特別刑務所
旭川刑務所の刑務官は所内の寮か、隣接の官舎に住んでいる。官舎は独身者向けと妻帯者向けの2種あり、他に住む事は許されない。所内で異常事態が発生した時、すぐに刑務官が総出で対応するためである。
空が白くなってきた、曇りの明け方。
佐々木剛司は独身者向けの官舎へ行った。大沢と表札のあるドアの前に立ち、ブザーを押す・・・反応が無い。
ドアノブに手をかけると、鍵はかかっていなかった。
「大沢、入るぞ」
声をかけて、ドアを開けた。そして、後悔した。
部屋の様子を何と書いてよいものやら・・・あえて喩えるなら「腐海」であった。
6畳の部屋の床には、あらゆる物が散乱していた。壁と天井にも、あらゆる物がひっかけられている。何が何と判別不能な散らかりようだ。
「大沢、生きてるか?」
「おお・・・」
佐々木の声かけに、部屋の中央にあった布団が動いた。むくりと盛り上がり、中に人が入っていたと知った。
腐海の主「王蟲」が現れ・・・大沢マリアが寝ぼけ顔を布団から出した。爆発した寝癖の髪と白い顔、長崎原爆のキノコ雲のよう。
「おまえな、セルフネグレク子と名前を変えるか?」
「ほっとけ・・・何の用だ、朝早くから女の部屋を襲って」
「今日は夕張へ出張で早出だ、知ってるはずだ」
「う・・・ん、そうだったかも」
大沢は這って布団から出てきた。身に着けているのは薄手のシャツと小さなパンティーだけ、へそが丸出しだ。物干しから今日の下着と靴下を取り、のろのろと着替え始めた。手を止め、振り返ると、佐々木は背を向けていた。
「着替え中の女を襲って犯すとか、今ならチャンスだぞ」
「あえて言うが、おれに男色の趣味は無い」
「今・・・すっごく屈辱的な事を言われたような気がする」
「屈辱とか言う前に、少しは女を自覚しろ」
佐々木は背を向けたまま、部屋を出て行った。
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