04 ケンちゃんは素直でマイペースなきつねです

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640b0b79-b11d-4ab1-9231-044fc6d96e65  わたしたちは並んで、境内に入って行った。お寺の敷地をぐるりと囲む板塀を、ぱっと見ただけではわからない世界があった。門を一歩くぐると、静かでほどよい重さの空気が漂う。 「意外と広いんだね、びっくり」  ケンちゃんを見上げる。  彼はというと、はじめからわたしの反応を見たかったようだ。口元をほころばせて、わたしに話しかけてくる。 「いいでしょ、この雰囲気」 「ええ」  当たり前のことだが神社仏閣と言っても、それぞれ歴史も雰囲気も違う。もちろん背景となる思想に違いがあることは承知だが、露天神社のライトな空気と比べて、こちら。幾分どっしり構えた印象を受ける。  きょろきょろ目線を動かしていると、更にケンちゃんが話しかけてきた。 「あそこに。豊臣秀頼の側室、淀君の御墓があります」  ()された方向を見ると、少し奥まったところにあるようだ。行ってみたいと告げる。  そちらに近づくごと、空気がひんやり流れてくるのがわかる。さほど古くない木製の看板には「史跡、淀殿之墓」と書かれてあった。 「お寺の、隅っこに祀られているのね。知らなかった」  わたしが言うと、案内人は笑った。 「ぼくも来るまで、知らなかったんですよ。もっと仰々しいかと思っていたから」  石造りの小さめな六重の塔の前。わたしはケンちゃんへと向き直った。 「神社の使い魔が、こんな宗派が違うところなんて来てもいいわけ? 神道と仏教って全然違うじゃない」  相手が苦笑いをしながら、頬を掻く。 「元々、神道が日本に仏教を広めるのを許可したわけで。その辺りは、ぼくも神さまから叱られたことがなくて」 「へえ。結構フリーなのねえ、ケンちゃんの神さまって」 「っていうか、黙認に近い」  ちょっと照れくさそうな表情で、きつね男子はこめかみを掻き続けている。  この子ってば。なんだか相当に、神さまから御贔屓にされているみたいだなあ。 29bb9c0c-d4cd-4944-8e51-02d2411104bd ※本当に、お寺の隅っこにあるんですよ。淀殿の御墓です。  
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