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わたしたちは並んで、境内に入って行った。お寺の敷地をぐるりと囲む板塀を、ぱっと見ただけではわからない世界があった。門を一歩くぐると、静かでほどよい重さの空気が漂う。
「意外と広いんだね、びっくり」
ケンちゃんを見上げる。
彼はというと、はじめからわたしの反応を見たかったようだ。口元をほころばせて、わたしに話しかけてくる。
「いいでしょ、この雰囲気」
「ええ」
当たり前のことだが神社仏閣と言っても、それぞれ歴史も雰囲気も違う。もちろん背景となる思想に違いがあることは承知だが、露天神社のライトな空気と比べて、こちら。幾分どっしり構えた印象を受ける。
きょろきょろ目線を動かしていると、更にケンちゃんが話しかけてきた。
「あそこに。豊臣秀頼の側室、淀君の御墓があります」
指された方向を見ると、少し奥まったところにあるようだ。行ってみたいと告げる。
そちらに近づくごと、空気がひんやり流れてくるのがわかる。さほど古くない木製の看板には「史跡、淀殿之墓」と書かれてあった。
「お寺の、隅っこに祀られているのね。知らなかった」
わたしが言うと、案内人は笑った。
「ぼくも来るまで、知らなかったんですよ。もっと仰々しいかと思っていたから」
石造りの小さめな六重の塔の前。わたしはケンちゃんへと向き直った。
「神社の使い魔が、こんな宗派が違うところなんて来てもいいわけ? 神道と仏教って全然違うじゃない」
相手が苦笑いをしながら、頬を掻く。
「元々、神道が日本に仏教を広めるのを許可したわけで。その辺りは、ぼくも神さまから叱られたことがなくて」
「へえ。結構フリーなのねえ、ケンちゃんの神さまって」
「っていうか、黙認に近い」
ちょっと照れくさそうな表情で、きつね男子はこめかみを掻き続けている。
この子ってば。なんだか相当に、神さまから御贔屓にされているみたいだなあ。
※本当に、お寺の隅っこにあるんですよ。淀殿の御墓です。
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