04 ケンちゃんは素直でマイペースなきつねです

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 わたしとケンちゃんは淀君のお墓参りを済ませ、広々とした境内へと出て来た。本堂の手前、桜の木が植えられている。枝葉の下にあたるところ、大人ふたり分が座れるほどの長椅子が置いてあった。 「茉莉さん、ちょっと休みましょうか」 「うん」  うながされるままに、並んで座る。紅く色づいた桜葉が空の色と入り混じって、滲んで見えた。  ひと息つくなり、ケンちゃんが話しかけてきた。 「会社を休んでお初天神まで来てくれたのに、きつね見習いにイタズラされちゃって、ごめんなさい。代わって謝ります」 「ああ、そのこと」  わたしは笑った。 「いいのよ。東堂くんやケンちゃんと会ったら、どうでもよくなってきちゃったから」 「そうなんですか?」  彼は怪訝そうな表情を浮かべている。 「普通の人が、そんな目に遭ったら。不機嫌になってしまって当然だと思うんですけれども」 「そうかなあ」  風に揺られて、葉が一枚。膝の上に落ちてきた。それをつまんで、わたしは言った。 「今日は朝起きてから、なんだか変だったのよ。どうしても、お初天神に行かなくちゃ。行かなくちゃダメ……なにかに急き立てられるように、って。あんな感覚のことを言うのね。その通りにしてみたら東堂くんにも会えたり、ケンちゃんともこうしてお散歩できたりしているんだもん。だから結局は、よかったのかなあと思ってる。きっと、こうなる一日だったのよ」 「へえ」  もしかしてケンちゃんは、こちらの「朝から、きつねにイタズラされた」不平不満をぶつけられるかと思っていたのだろうか。ちょっとだけ、頬をゆるめてくれたような気がする。 「ところでケンちゃんは、なんで学校を休んでまでカレーなんて食べていたのよ」  わたしの問いに、相手はひゅっと肩をすくめた。 「カ、カレーうどんを作ってみたかったから」 「カレーうどん?」 「そう。これからの季節に、あったまるでしょ。だから」  長身をもじもじさせながら、ケンちゃんが答える。
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