05 涙のカレーうどん

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 隣に座った若い男が、こちらへと少しだけ座り直す。それから、ぺこんと頭を下げた。 「すみません。お姉さんひとりで食べていたのに、邪魔して」 「いいの、気にしないで」  顔を上げた新客は、ためらいながらわたしを見つめた。 「……な、なんかね」 「はい」 「なんていうか、この店」 「ええ」  うなずくと、男が自嘲するように軽く鼻を鳴らした。 「不思議だった、ちかちかするオレンジ色の灯りが自分のことを誘っているみたいで。つい、入ってしまった」 「そう」 「そしたら、お姉さんと。こんな季節なのに、お祭り帰りの男の子がいるじゃないですか」  お祭り帰り、ねえ。……ケンちゃんは対外的には、そう見えるんだねえ。わたしは思わず、くすくすと笑ってしまう。  男は自分が笑われたのかと勘違いしたのか、深くうつむく。 「さっ、最初は帰ろうかと思ったんだけど、それじゃあ、い、今までと同じだと思って踏みとどまった。そしたら、カレーうどんが出てきて」  ぼそぼそと語る声が、段々とちいさくなっていく。 「……なんだか俺ね、誰かに『美味しいですね』ってね、自分の気持ちを……き、聞いてほしくなったんです。それで」 「わかりますよ、それ」  相槌を打つと、男がパッと顔を上げる。こころなしか、彼の目と鼻先が赤く滲んでいるように見えた。 「いっ今まで。自分から誰かに、はっ、話しかけたいと思ったことなんか、なかったんだ」 「……そう」 「それが、不思議なの」 「たぶん、ここの店のせいじゃないかな。それって」  男が、ちょっとだけ相好を崩した。 「そうかもしれない」
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