夏祭り

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「まー、まー!」 「コラ、サッちゃん、止まらない!」 人混みの流れの中で、ピタッと立ち止まってしまった娘を私は慌てて抱き上げた。 「すみません、すみません」 はた迷惑そうに私達を追い越してゆく連中に、ちいさく頭を下げながら、腕の中でジタバタ暴れる娘を抑え、私はなんとか歩き出す。 「あああ~~、まーまーっ!」 (しーっ、うるさいよサッちゃん。 ちょっと静かにして) 準備していた騙し菓子のアメを与え、私はやっと列を抜け、歩道の縁石に座り込んだ。 はー、もう… 泣きそう。 チロチロと嬉しそうにアメを咥える娘、五月(さつき)の金魚みたいな赤い帯を見つめながら、私はひとつ、ため息を吐く。 やっぱり、お祭りになんか来るんじゃなかった。 「ちゃんと座ってるんだよ」 こくん。 頷きながらも、私が少し離れると、たちまち「まー、まー!」 と叫びながら付いてくる。 仕方なく五月を抱き上げ、やっと唐揚げの屋台に並んだ。
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