55人が本棚に入れています
本棚に追加
「まー、まー!」
「コラ、サッちゃん、止まらない!」
人混みの流れの中で、ピタッと立ち止まってしまった娘を私は慌てて抱き上げた。
「すみません、すみません」
はた迷惑そうに私達を追い越してゆく連中に、ちいさく頭を下げながら、腕の中でジタバタ暴れる娘を抑え、私はなんとか歩き出す。
「あああ~~、まーまーっ!」
(しーっ、うるさいよサッちゃん。
ちょっと静かにして)
準備していた騙し菓子のアメを与え、私はやっと列を抜け、歩道の縁石に座り込んだ。
はー、もう…
泣きそう。
チロチロと嬉しそうにアメを咥える娘、五月の金魚みたいな赤い帯を見つめながら、私はひとつ、ため息を吐く。
やっぱり、お祭りになんか来るんじゃなかった。
「ちゃんと座ってるんだよ」
こくん。
頷きながらも、私が少し離れると、たちまち「まー、まー!」
と叫びながら付いてくる。
仕方なく五月を抱き上げ、やっと唐揚げの屋台に並んだ。
最初のコメントを投稿しよう!