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興奮して、手の中で大暴れする五月。
その指の先に_____
彼がいた。
「まー、まー!ぱー、ぱー!」
間違いない。
私達より5、6人ほど先に、浴衣の女と仲良く並んでいるその背中は、3か月前に離婚したばかりの元夫、成紀のものだ。
「ぱー!ぱー!」
揃いの浴衣姿で彼女と二人、手を繋ぎ、楽しそうに話をしている彼には、懸命に叫ぶ娘の声は聞こえていない。
“まー。ぱー!”
叫び続ける娘を止めるのも忘れて、私はしばらくの間、ボンヤリとその後ろ姿を見つめていた_____
私達の離婚の原因は、お定まりの、成紀の浮気というやつだった。
本当は、1年くらい前から薄々気が付いてはいた。
でも、小さな娘を抱えて1人で生活する勇気はなく、悩みながらも1年近く知らないふりをしていたところ、とうとう向こうから離婚を切り出されてしまったのだ。
示談の中で知ったことだが、彼はなんと、私が妊娠していた時から、不倫をしていたらしかった。
成紀は一流の商社に勤めていたし、私の側に落度のない、向こうからの一方的な理由ということで、あちらの弁護士サイドからは、かなり有利な条件が提示された。
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