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「おいちいねー、おいちいねー」
今、私と五月は、さっきの縁石に腰かけている。
買ってきた唐揚げを嬉しそうに抱え込み、嬉しそうに頬張る五月。
最近、保育園で覚えて帰った「おいちい」を、一口毎に連呼する五月の姿に、私はホッと安堵の息を吐いた。
唐揚を買っている最中も娘を抱き、サイフのお金をモタモタ取り出し、後ろの人に睨まれながらお金を払った。
娘と一緒に腰を降ろした時、やっとひとつ、肩の荷物を下ろしたって気分になる。
つかの間の平和、えも言われぬ幸せな時間。
これから五月が大きくなって私の手を離れていくまで、あと何百回、何千回これが続くのか分からない。
その度に私はきっと、同じ苦痛と疑問を感じ、不平等を嘆いた後に、何とも言えない幸せを噛み締めるのだろう。
でも、
その全ての荷物を肩から降ろし終えた時。
きっと、今の何百、何千倍の幸せな時を、五月から、得られるのじゃなかろうか。
それは決して簡単なことじゃなく、誰に認められることもなく。
ただの自己満足でしかないけれど。
きっとそれは、途中で荷物を下ろしてしまった成紀には、もう決して得られない、尊くて得難い何かであるに違いないのだ。
《おわり》
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