あの日

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石段に腰掛けた2人は、しばらく会話をしなかった。 じっと、タイミングが来るのを待つようにただ、黙っていた。 だけど、意を決したように田中が口を開く。 「あのね、ママが死んでから、何もかもが狂ったの」 死んだ?田中の母親が?なんで、生きているなんて言ったのだろう。 「それは、私のせいだって言いたい?」 夏美の声が鋭くなる。 夏美のせい、というのはどういう話なのか。 「違う。夏美は、あたしのためを思って、ママを殺してくれた。それは、感謝してるの」 「そうでしょう?私は、ゆーちゃんを普通の女の子にしてあげたくて、殺したの」 ……夏美が、田中の母親を殺した? まさか、そんなわけない。 ……そんなわけないと、どうして言い切れる? 「だけど、それからパパがちょっとおかしくなっちゃって。毎日、殴るの。首を絞めてきたり……。ママを返せって、まるであたしが殺したみたいに言うのよ」 「でも、本当に殺されたなんて思っちゃいないでしょう。あの蔵、すごく足元悪いし、騒ぎ立てたらおじさんが疑われる」 「そう。そうなんだけど、でも、今年の祭りでね、選ばれるのは、きっとうちなのよ」 「どうして?」 問いかけた夏美は、どこか答えを知っているような口ぶりだった。
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