131人が本棚に入れています
本棚に追加
/213ページ
石段に腰掛けた2人は、しばらく会話をしなかった。
じっと、タイミングが来るのを待つようにただ、黙っていた。
だけど、意を決したように田中が口を開く。
「あのね、ママが死んでから、何もかもが狂ったの」
死んだ?田中の母親が?なんで、生きているなんて言ったのだろう。
「それは、私のせいだって言いたい?」
夏美の声が鋭くなる。
夏美のせい、というのはどういう話なのか。
「違う。夏美は、あたしのためを思って、ママを殺してくれた。それは、感謝してるの」
「そうでしょう?私は、ゆーちゃんを普通の女の子にしてあげたくて、殺したの」
……夏美が、田中の母親を殺した?
まさか、そんなわけない。
……そんなわけないと、どうして言い切れる?
「だけど、それからパパがちょっとおかしくなっちゃって。毎日、殴るの。首を絞めてきたり……。ママを返せって、まるであたしが殺したみたいに言うのよ」
「でも、本当に殺されたなんて思っちゃいないでしょう。あの蔵、すごく足元悪いし、騒ぎ立てたらおじさんが疑われる」
「そう。そうなんだけど、でも、今年の祭りでね、選ばれるのは、きっとうちなのよ」
「どうして?」
問いかけた夏美は、どこか答えを知っているような口ぶりだった。
最初のコメントを投稿しよう!