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田中 友紀
「……黒井くん?」
光が失われ、闇が戻った時、あたしは黒井くんの名を呼んだ。
けれど黒井くんの手の温もりが消えていることに、気付いていたからたった1人になったことくらいは、理解していた。
そっと、目を開けるとやっぱり世界はあたし1人。
どこに行ったの?と問いかけることがバカらしくなるくらいに真っ暗で、薄っすら見える足元には、小さな猫の置物が転がっていた。
「こんなの……なかったのに」
ああ、声がかすれる。
恐怖を感じれば感じるだけ、全ての念が自分に返ってくるとママが言っていた。
ママって言うと、ママは怒るから、あたしは自分の心の中でしかママと呼べない。
お母さんって言わないと返事すらしてもらえなかったことを思い出す。
黒井くんがいない今、あたしはどこに行ったらいいのだろう。
小屋を出ようか?
嫌な感覚にしかならない。
このまま時間を過ごそうか?
いつまでも時間が過ぎないような気がする。
やっぱり、小屋から出るしかないのだろうな、と感じた。
怖い。あたし1人なら絶対にこんなところ来ないのに。
小屋のドアを開けると、太陽が私に覆いかぶさる。
暑い。真夏の太陽だったから、思わず日常に戻ったような気になっていた。
でも、ここは現実世界ではない。
それくらい、あたしにだってわかる。
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