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チャーリーゲーム
ある所に男がいた。彼は他人のために動くことができる人間だった。自分の安全よりも、人の願いを優先するような者だった。
ある日のことだった。男は、術者は呪われると噂される呪術を、人々に頼まれ検証することになった。
男は呪術を成功させ、そして呪いも受けなかった。
人々は感嘆し、男を崇めた。男は皆の興奮した様子に満足した。噂は噂に過ぎなかったのだ。しかし。
人々の中から、「つまらない」と言う不満が上がった。最初は微かな声だった。それが日毎に大きくなった。
「呪われれば面白かったのに」
それは勝手な言葉だった。
男は困惑した。「少し残念だった」と言うだけの話だろうと聞こえぬふりをした。
だが、人々の自分勝手な意見は、希望は、男を追いつめた。
遂に男は、
「皆がそれを望むなら」
と自ら命を絶った。
絶命の瞬間、男は呪術のことを思い出した。
「噂を真にしなければ」
気付くと男は、見知らぬ部屋にいた。
目の前には少女。必死で呪術を行う少女に、男は話しかけた。
――聞こえないようだ。仕方なく、呪術に則りコンタクトを図った。
少女は驚いた様子だったが、すぐに鬼気迫る表情で叫んだ。
「****を呪い殺して!!!!」
呪殺などしたことはない。しかし男は、標的を殺した。
標的の、恐怖に逃げ惑う姿は、少しだけ――……。
さて、と男は呪殺を願った少女の元へ戻った。標的の死を知った少女は怯えた笑いを浮かべている。
――まだ男が戻ったことに気付いていない。
男は、机の上に投げたままの呪術用具でコンタクトを図った。
このまま終わりでは、彼女も自分と同じ道を辿ってしまう。故に、文言はこうだ。
『お前は呪われて死ぬ』
少女は怯えた。悲鳴を上げ、家族に泣きついた。紙は破られ、鉛筆は折られた。
安心を得た少女が日常に戻ろうとしている――……。
生き残ってはダメだ。民意に殺されるのは自分だけでいい。誰も恨めず、何も憎めず、ただ自らの不手際だけを呪う存在になど、他の誰も、なってはならない。
男は他の鉛筆を手に取った。目に付く紙に、手当たり次第同じ文言を書いた。それを見た少女は泣き叫び、家族は慄いた。少女の愚行を責めながら、筆記用具は全て処分された。それでも男は止まるわけにはいかなかった。棚の裏に落ちていたペンで、壁に書き殴る。
『お前は呪われて死ぬ』
数日続いたこの行為こそが呪いだと気付いた男が、『お前は死ぬ』に文言を変えた頃、少女は発狂して窓から身を投げた。家族もノイローゼになって、葬儀が終わるなり引っ越した。
男は安心していた。これで少女は被害者である。呪いを行い、呪いに殺された被害者。民衆に死を望まれることはない。
少女が民衆の自分勝手な望みに巻き込まれなかったこと、呪術の噂を真実にできたこと。その2つを誇りに思いながら、男は再び呪術が行われるのを待った。
憎しみと恐怖と呪いを糧に、彼は呪術の主として人の望みを叶えながら、今も術者の命を奪い続けている。
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