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御二方のやりとりにはらはらしていたその時だった。
『信じて』
「はっ!」
また、あの声が聞こえた。今度は頭に直接届いたような、そんな感覚だった。驚いて目を見開いていると、奏明さんが首を傾げて覗き込む。
「どうしたの?」
その様子からして、聞こえていない。そうは思っても、確認せずにはいられなくて、消え入りそうな声で絞り出して聞いた。
「あの、今…」
けれどやはり問われた彼はぴんときていなくて。
聞こえていない…?でももしこの声が神様のものだとしたら、二人には聞こえてるはず。
だけど、夕焼けの瞳も、朝焼けの瞳も嘘をついているようには見えない。
となると。
「でも霊感なんてないし、幽霊の声だったら…怖すぎます」
「何をぶつぶつ言ってんだお前。早くここから」
夜詩さんが言いかけて、何故か止めた。気になって顔を上げると、夜詩さんは後方を睨んで冷や汗を頬に流していた。
途端に、
「走って」
パシッと腕を取られ、
「え───」
息をつく暇もなく力強く引っ張られ、足は地面から引き離される。顔を上げると朝焼け色の髪があわだたしく揺れていて、奏明さんにひっぱられていることに気づく。
その真横で疾走する夜詩さんは苦虫を噛み潰したような顔つきで、
「言わんこっちゃねぇ」
何かに対して文句をついている。私にはなんのことやらで、ひたすら足を動かすしかない。けど、奏明さんが肩越しに振り返り、夜詩さんを睨みつけているところからして、何やら不穏な空気なのは察しがつく。
「お前が貧相な結界を張ってるからだろ」
「この時期はこれでいいんだよ!こいつがいるからいけねーんだ」
言い合いが始まったところで、背筋がひんやりし、夜詩さんがより一層焦った声を上げた。
「とにかく走れー!」
私は有無を言わされないまま走り抜け、おっかない雑木林を後にした。
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