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夜詩さんはまだ凄んでいた。片膝をつきながらも闘争心だけは背丈に勝る、その意気込みは凄い。
「ざけんなよ、てめぇ…」
今にも噛み殺されそうな唸り声。身震いを覚える私は、彼から目が離せなかった。離したら最後、切り裂かれてしまいそうで。
ここは何とか弁明をしなくては。
「あ、あの夜詩さん!」
前かがみになってそう叫んだ。なのに…
「さっ、音花さん。こんなやつほっといて本堂へ行こう」
手を取られ、優雅にエスコートされている。
違う違う!今背を向けたらだめなのに!
「まてや…この…」
その声に振り返ると、彼は飛びかかってなんてこなかった。お腹を抱えて、再び蹲っているのだから。
「あああの、夜詩さん大丈夫ですか?」
「ほっといていーよ、そんなやつ」
奏明さんの言葉を無視するのは心苦しいけれど、私は考える暇もなく、夜詩さんに駆け寄った。
苦しそうに蹲る背に手を伸ばした瞬間だった。
「触んな!」
パシッと、払いのけられ、睨みを受けた。これは、明らかな敵意。胸の奥がぐっと締め付けられる、嫌な感覚を、私は知っている。
何も言えず、俯いた私から顔を背けた夜詩さん。見兼ねた奏明さんが私に手を差し出してくれる。
「ほらね、野犬に噛みつかれる。行こう」
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