最ッ低な出会い

13/14
前へ
/14ページ
次へ
 夜詩さんはまだ凄んでいた。片膝をつきながらも闘争心だけは背丈に勝る、その意気込みは凄い。 「ざけんなよ、てめぇ…」  今にも噛み殺されそうな唸り声。身震いを覚える私は、彼から目が離せなかった。離したら最後、切り裂かれてしまいそうで。  ここは何とか弁明をしなくては。 「あ、あの夜詩さん!」  前かがみになってそう叫んだ。なのに… 「さっ、音花さん。こんなやつほっといて本堂へ行こう」  手を取られ、優雅にエスコートされている。  違う違う!今背を向けたらだめなのに! 「まてや…この…」  その声に振り返ると、彼は飛びかかってなんてこなかった。お腹を抱えて、再び蹲っているのだから。 「あああの、夜詩さん大丈夫ですか?」 「ほっといていーよ、そんなやつ」  奏明さんの言葉を無視するのは心苦しいけれど、私は考える暇もなく、夜詩さんに駆け寄った。  苦しそうに蹲る背に手を伸ばした瞬間だった。 「触んな!」  パシッと、払いのけられ、睨みを受けた。これは、明らかな敵意。胸の奥がぐっと締め付けられる、嫌な感覚を、私は知っている。  何も言えず、俯いた私から顔を背けた夜詩さん。見兼ねた奏明さんが私に手を差し出してくれる。 「ほらね、野犬に噛みつかれる。行こう」
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加