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葛藤
繁華街の一角にある、小さなバー。そのバーのカウンターに、和水は突っ伏していた。
「あ〜〜〜無理…きつい…なんだよあいつ…こっちはゲイだぞ…意味わかってあんなこと言ってんのかよ…」
「もう、なごちゃんったらおっさんみたいな声出すわねェ。お酒は憂鬱な気持ちで呑むもんじゃないわよ」
「おれもうおっさんだし…30だし…」
やあねェ、なんて言って朗らかに笑うのはこのバーのオーナーで、和水の高校の同級生の成弥(なるや)。
口調から分かる通り、所謂オカマで、ゲイだ。
高校の時からこんな感じで、成弥のことを疎む人も何人かいたようだが、和水は強かで優しく、頼りになる成弥のことが好きで、高校卒業してからもちょくちょく相談に乗ってもらったりしていた。
「なんでピチピチの高校生男子が俺みたいな冴えない男に言い寄ってくるんだよ…」
「あら、なごちゃんはいい男よォ。ちょっとヘタレなところあるけど」
「うるさい…」
そう言って和水はグラスに入った酒をグイッと煽った。
成弥は頬杖をついてそんな和水を見る。
和水はだいぶ酔いが回っているようだ。
もう、お酒そんなに強くないのにハイペースで呑むから、と成弥は小さくため息をついた。
「…ねぇなごちゃん、もうその子に応えてあげてもいいんじゃない?」
「ッ…何言ってんだよ、生徒と教師だぞ、ダメに決まってる」
「でも、1年後って話じゃなかった?別に卒業したら咎められないし。ノンケの男なんてそうそう捕まえられるもんじゃないわよォ」
「そりゃあ、そうだけど…」
「アンタ別に今は彼氏いないじゃない、そろそろ落ち着いてもいい頃よォ。最近の年下の男は頼りになるし」
パチン、と成弥はウインクをする。
それを見た和水は持っていたグラスをことり、と置き、右袖をまくり、自分の腕を見つめる。
そこには、酷い火傷の痕があった。
「…俺だけ、幸せになる訳にはいかないんだよ」
「…もう、まだそんなこと言ってるの?あの事はしょうがなかったのよ」
「ッしょうがなくなんかない!」
和水はバンッとカウンターを勢いよく叩く。
その後直ぐにハッと我に返り、頭をかいたあとバツが悪そうに立ち上がった。
「…ごめん。ご馳走様」
そういうと、和水はお金を置いて立ち去ってしまった。
成弥は和水が出ていったドアを見つめ、目を細める。
「あの子には、幸せになって欲しいんだけどねェ」
すると、ガチャリ、とドアが開く音がした。
成弥はにっこりと人好きする笑顔を浮かべ、突然の来訪者を出迎えた。
「あらあら、未成年はこんなところに来ちゃダメよォ」
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