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コンフリクト
歩きながら忌々しい自分の過去を思い返していた和水は、次第に辛くなってきて、遠回りして帰ろう、と家とは逆方向に歩き出す。
今日は眠れないかもしれない、なんて思いながらどんよりとした曇り空を見つめ、フラフラと歩いていた。
「センセー!和水先生!」
突然響いた聞き馴染みのある声と掛けてくる足音に、思わず後ろを振り向く。
そこに立っていたのは、令だった。
金髪とピアスが、この繁華街に妙にマッチしている。
「…なんでこんなところにいるんだ、学生が来ていいところじゃ」
「いいから!お説教は後で聞くから!とりあえず来て!」
「あ、おい!」
令は和水の腕を掴んで走り出す。
引っ張られるままについていけば、静かな公園に出る。
令はそこで立ち止まった。
「ちょ、なんなんだ一体」
戸惑いを隠せないまま和水が尋ねると、令は和水を見つめる。
なんだか見透かされているみたいで、すこし落ち着かない。
すると、令がガバッと頭を下げ、ゆっくりと口を開いた。
「先生、ごめん。先生に昔、何があったか、聞いた」
「は!?そんなの、誰に」
「成弥さんに。さっき、店に行って、聞いてきた」
「お前、ほんとに何やって」
「知りたかった。先生のこと、全部知りたかった。なんで俺が好きだって言うと迷惑そうな顔じゃなくて苦しそうな顔するのか、知りたかった」
「…人には、詮索されたくないことがあるんだよ。ほっといてくれ」
令から目を逸らし、和水はそう吐き捨てた。
「ほっとけない!」
間髪を入れずに令が叫ぶ。
「…ッもういいだろ!何が目的なんだ!俺の過去知って何が言いたいんだよ!俺を貶したいのか!?」
和水が令に被せるようにそう叫ぶと、令は見たことも無いような、辛そうな顔をいっぱいに浮かべて言った。
「貶したいわけ、ないじゃん!好きな人が苦しそうにしてたら、助けたいって思うのが普通だろ!」
透き通った目で見つめながら叫ぶ令を見て、和水は一瞬昭輝の面影を令に重ねてしまい、慌てて首を横に振った。
「っだから、ダメなんだって!話聞いたなら分かるだろ!?俺は助けられちゃいけないんだよ!救われちゃ、いけないんだ…」
そう言って和水は俯く。そんな和水を見た令は、無理やり両手で和水の顔を上げさせて、叫んだ。
「ほんとに、それが償いになってるって本気で思ってんのかよ!?そんなわけないだろ!」
「っ、お前に、何が」
「わかんねえ!俺はバカだから、ガキだから難しいことはよくわかんねえけど!先生の好きな人が、命懸けで守ってくれた自分の命を浪費してどうすんだよ、そんなのだれも嬉しくないだろ!」
「…ッ」
「守ってもらった命で幸せな人生全うすんのが先生の償いだろ、バカ!!」
令は和水から視線を外さずに、ハア、ハアと息を切らす。
刹那、和水の目から涙が溢れ、くしゃりと顔をゆがめる。
ごめん、ごめんと何度も呟きながら、幼い子どものように泣きじゃくる和水を、令はそっと抱き締めた。
分厚い雲の隙間から、月明かりがそっと顔を覗かせていた。
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