エピローグ

1/1
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ

エピローグ

夏祭りの夜、特等席に向かう途中で小学生から声をかけられた。 「にいちゃん達、お面を被った女の幽霊の噂知ってる?」 俺とナツオは顔を見合わせた。どうやら俺たちの母校では、10年前にナツオが作った幽霊話が根付いているようだ。 マサキの死後、うちの学校が大騒ぎになっていたことを思い出した。 ナツオは、優しく笑って答えた。 「知ってたか?お面の子に会っても、思う存分一緒に遊んでやれば呪われずに済むんだぜ」 形はどうあれ、10年前のマサキの願いは叶っているのだと気付いた。神様になったマサキは、自分でその願いを叶えたのかもしれない。枝に巻いた便箋にはこう書いてあったのだ。 『時々でいいから、誰かが私を思い出してくれますように』 真っ暗な夜空に、ぱっと花が咲いた。色とりどりの光が屋上を照らしては消えていく。 左手がひんやりとし始めた。 あれから、毎年花火を見るたびに、初デートの日のマサキの手の感触が俺の左手を包み込むようになった。 これからもきっと、こうして思い出し続けるはずだ。つらい体にもかかわらず、精一杯俺の手を握ってくれていた、あの冷たい手を。 「もう、ちゃんと呪ったから!」 不意にマサキの最後の言葉を思い出す。 あぁ、そうか。 俺はいつだって、気付くのが遅い。 花火を見ると、ひんやりする左手。 あの日マサキにかけられた呪いって、これだったんだ。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!