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「うわっ!」
咄嗟に声は出たものの、体が動かない。面を被ったそいつは、ゆっくりと俺に向かって手を伸ばす。こちらに伸びる手を見ながら、ナツオの話を思い出していた。
お面をつけた女子の霊の呪い。
ナツオの言う通りこいつに人を呪う力があるのなら、俺は今呪われようとしているのか。
「はわわぁ」とだらしない声を出すと、面の向こうから低く小さな笑い声が聞こえた。伸ばされた手は俺の左手を掴む。冷たい手だった。
「今から君を呪うよ。少し時間がかかるから、お祭でも行こう?」
しゃがれた声でそいつが言った。
呪い?祭?
呆気に取られているとそいつはもう片方の手でお面を差し出した。同じ狐の面だ。
「これ、付けて?」
背いてはいけないような気がした。俺は素直にそれを受け取り、面を被った。
「よし」と一転して楽しそうな声を上げ、そいつは神社へと歩き出した。
冷たい手に引っ張られるがまま、俺は考える。
冷静になれ。幽霊なわけがない。幽霊なんてこの世にいないんだ。そんな存在、全然ピンとこない。こいつは幽霊の真似をしてるただの人間だ。同じぐらいの年かな。うちの学校の女子かもしれない。
とにかく絶対霊ではない、と思うと根拠のない安心感が俺を落ち着かせてくれた。
「ちゃんと歩くから、あんまり引っ張るなって!」
「あ、ごめんね」と幽霊らしくないセリフが返ってくる。そらみろ、どこが幽霊だよ。
夏の夜にしては冷たい手だったが、俺は何も気付いていなかったんだ。
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