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来た道を戻った。 屋台の活気から離れ、周囲は段々と静かになる。 学校の裏門を抜け、校舎の脇の非常階段の入り口の扉を開ける。普段は内側から施錠されている扉だが、今日の昼過ぎに学校に忍び込んで俺が開けておいたのだ。 肝試し好きの友達を持つと、学校に忍び込むなんて容易いことだ。 非常階段は校舎の壁に蛇腹状に張り付いている。 幽霊のくせに階段の途中でバテているそいつに合わせ、俺は歩調を緩める。 「まだ時間あるからゆっくりでいいよ」 「はは、優しいね」 「優しくしときゃ呪われないと思って」 「それとこれとは別だよ」 俺も暑くなってきて、無意識にお面を外した。しかし、幽霊は俺の顔を見ても、何も言わなかった。 「わぁ!すごい!これが特等席かぁ」 登り切った先の屋上で、そいつは感嘆の声を上げた。学校に住む幽霊とは思えない反応だ。 「ナツオいねぇな。まぁいいや。途中でナツオが来ても呪うなよ」 「呪いは君にだけかけてるから安心して」 再び、お面の向こうに悪戯っぽく笑う女の子が見えた気がした。 「お前本当は誰なんーーー」 そう言いかけた時、狐の面を赤と黄色の光が鮮やかに照らした。一瞬の後、体中に大きな音が襲いかかる。 「わぁ!綺麗!」 夜空に色とりどりの火花が咲く。咲いては散り、咲いては散る。 「すごいね!こんなに綺麗な花火見たことない!」 こいつのどこが幽霊なんだよ、と改めて呆れる。こんなにキャッキャする幽霊がいてたまるものか。 「この場所、誰にも言うなよ」 「綺麗だねぇ」 「聞いてんのかよ」 その後も、花火は夜空のキャンバスに様々な色を描いては消えていった。 途中から俺達は一言も話すことなく、夜空を見上げていた。 繋いだ手の冷たさが、少しだけ心地よかった。
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