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「凄く綺麗だったね!」
幽霊は、繋いだ手をぶんぶん回しながら階段を降りている。
「来年も見れるかなー?」
「俺を呪い殺さないなら、また連れてきてやってもいいよ」
「でももう呪いかけちゃってるしなぁ」
「はぁ?まだ続いてたの?」
「もうすぐかけ終わるよ」
「おー怖い怖い」
非常階段を降り、校舎の脇を抜けて裏門へ向かう。花火が終わると皆神社に願い事を書きに行くから、学校の周りはまだまだ静かだ。結局、ナツオは何してるんだ。
「ごめんね。本当はナツオ君は、私のせいで来れなくなったんだ」
俺の心を読み取ったかのように、幽霊は言った。
「どういうこと?」
「ナツオ君に会えば分かるよ」
「ははは、ナツオも呪ったの?」
「そんなとこかな」
消え入りそうなしゃがれ声が返ってくる。
今思えば、おかしいと思うべきだったんだ。俺の親友は、約束に遅れることはあっても、約束を破ることなんて一度も無かったんだから。
でもその時の俺はやっぱり何も気づかずに、「まーた幽霊キャラかよ」なんて思ってしまっていた。
「私はもう帰るね」
「え?神社いかないの?」
「幽霊が死んだ人にお願いするなんて、おかしいでしょ」
お面の向こうから、ふふふという無邪気な笑い声がした。
「今日はありがとう」
なんだか急にそいつが寂しそうに見えて、俺は何も言えなくなった。絞り出すように「あんまりうちのクラスメイト呪うなよ」と言うと、そいつはまた少しだけ笑った。
「じゃあね!」
繋いだ手を離して、幽霊は校舎の方へ帰っていった。少しして、こちらを振り向く。
「もう、ちゃんと呪ったから!」
俺は、はいはい、と呆れ気味に返事をして、手を振った。何の呪いだよ。
浴衣の後ろ姿を見る。一体、誰だったのだろう。
校舎まで近づくと、闇があいつを包み込んで、そのまま見えなくなった。
繋いでいた手の感触が、まだひんやりと残っていた。
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