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夏。
彼女なんていない俺は、何を血迷ったのか夏祭りに来てしまった。 見渡す限りの人、人、人。まさに人ごみだ。
しかも、カップルばかり。 妬みつつも、一体彼らはどこで知り合ったりしてるのだろうか、なんて考えていた俺は移動する人ごみに飲まれてしまった。
ただ夏祭りという独特の雰囲気のなか、屋台を回りたかった。そんな当初の希望はむなしく、屋台がある場所から俺を飲み込だ人ごみは流れていく。
流れるプールでも、もう少し自由がきくというのに。
人ごみを何とか抜け出すといつの間にか花火会場に来ていた。
それも絶好の位置だ。 もともと花火は見るつもりがなかったが、こんな絶好の位置で見られるなら見ていってもいいかもしれない。
それに、今から帰ろうとするとまた人ごみを掻き分けて進まなければならない。 俺はチラリと後ろを見て、改めて人の多さにうんざりする。
俺は人ごみというか、人が大勢いる場所は好きではない。むしろ嫌いなのだ。だからこそどうしてこんなところに来たんだと、やはり数時間前の俺は血迷っていたと後悔した。 ここは大人しく、花火を見て人が少なくなった所で帰ろう。 俺は後悔しながら、花火が始まるのを待った。
少しして、花火大会が始まる。一発、一発と花火が上がってく。
ドン!という大きい音が辺りに響き、空に花が咲いた。 俺は久し振りみる花火に少しだけ感動していた。
だけど感動した状態は長くは続かなかった。
周りで「たまやー」と叫んでいる人がいるからだ。どうしてそう叫ぶのかは知らないが、俺からしたら余計だ。 こういう物は静かに見たいタイプなのだ。しかも、花火という音が出る芸術は特に。
花火は見るだけじゃなく、音もしっかりと聞くべきだ。空に花が咲いた『後に』空に鳴り響く重低音。 花火は『見る』と『聞く』が合わさった芸術なのだ。余計な雑音は出さないでほしい。 だが、こんな大勢の人がいるなかで叫んでいる人に文句なんていえない。 俺は黙って花火を見続けた。
「先輩?」
花火を見ていると、近くで可愛らしい声が聞こえた。 何処かで聞いたような事で、なんとなく知人かも知れないと思い辺りを見渡した。
すると、すぐとなりに女の子の後輩がいることに気づいた。
「花火大会に来てたんですね」
「たまたまだけどな」
普段からよく話す事がある後輩。 彼女はモテるので、個人的には関わりたくないが向こうからくる分には悪い気はしない。 この小悪魔はこうやって男を落としているのだろうか、だとしたら俺もヤバイかもしれない。
「もしかして、人ごみに流されてここまで来たんですか?」
「よくわかったな」
「実は私も人ごみに流されてしまいまして」
どうやら彼女も人ごみの被害者のようだ。 浴衣姿なのに、よくあの人ごみを切り抜けられたものだ。俺は心配しながらも、後輩の話の続きを聞く。
「先輩・・・1人ですか?」
人数だろう?。いや、人数だろう。 あいにく、友人は片手で数えても指が余ってしまう。そんな俺には彼女すらいない。 この小悪魔は、聞かなくてもわかるような事をどうして聞くのか。これも、小悪魔の作戦かもしれない。
「普通に1人だが」
「!!それなら・・・その・・・花火、一緒に見ませんか?」
ほらきた。小悪魔の上目遣いだ。 こんな事をされたら断れる男は少ないだろう。 もちろん、俺は断れる少数派だ。 ここは断っておこう。彼女は俺みたいな奴より、ふさわしい人が隣にいた方が似合うだろう。
「別にいいぞ」
「やった!」
おや?思った事と実際に口にした内容が真逆だ。 もしかしたら、気づかない内にもう既に俺は小悪魔に落とされてたのかもしれない。
その後、最後まで花火は見ていた。 帰り際になって気付いたが、どうやら手を繋いで見ていたようだ。
なるほど。どうりで、周りの音が聞こえないと思ったらこういう事だったのか。 おかげで最高の花火大会をだった。 おまけに世界一の花火も見れた。
家に帰宅した俺は、また来年も人ごみに飲まれて見ようと、血迷うのであった。
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