十三番目の魔女の呪い

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十三番目の魔女の呪い

 藤沢さんの話ってしたっけ?あのパートの女の子。  本当は「女の子」って年齢でもないんだけどね、でもびっくりするぐらい見た目が若いの。  もう結婚もしてて、息子は大学生だって聞いた時は驚いちゃった。四十五歳であの見た目になれるなら、私何でもするわ。  それで、最初は年下だと思ってたからなれなれしく下の名前で呼んでみたりもしたわけ。ちゃん付けでね。  そしたら、いつもニコニコしてるのに、別人みたいに血相変えて「やめてください!」なんて言われたのよ。  だからこっちもびっくりして、何か気に障ることでもあったのかって聞いてみたら、自分の下の名前が好きじゃないんですって。  確かに、ちょっと今風っていうか、派手な漢字で変わった読み方をするような名前だったのね。可愛らしい見た目だから、よく似合ってると思うんだけど。  事情を知らなかったとはいえ嫌な思いさせちゃったから謝ったら、向こうの方が恐縮してるくらいで、とにかく名前の話はそこで終わったのね。  うん、普通にお互い名字で呼び合って。  それをきっかけにしたわけじゃないけど、仕事をしているうちによく話すようになって、飲みに行くこともあったのよ。  もちろん職場の人も一緒にね、でも、その時はたまたま私と藤沢さんだけだったの。  あんまりお酒が強くないみたいで、いつもはそんなに飲まないのに、珍しく酔っぱらってたわ。  私もそれに当てられて結構飲んでたから、つい口が滑っちゃったのよね。  顔を赤くしてふにゃふにゃ笑ってるのがあんまり可愛いもんだから、つい名前を呼んじゃったわけ。  そしたら、別に怒るわけでもなく「はあい」なんて返事をするのよ。いつもより更に幼い感じでね。  そんなの、懐かれてるみたいで可愛いじゃない。だから何度も呼んでみて、二人でくすくす笑いあってたわ。  でも、そのうちおかしなことに気が付いたの。  ここに来る前よりも、藤沢さんの顔が幼くなっている気がして。  最初はお化粧が落ちたからかと思ったけど、それだけじゃなくって、手も小さくなってたの。だって結婚指輪がぶかぶかになってたもの。  隣でうとうとしてる彼女に注意しようと思って名前を呼んだら、その瞬間に指輪が抜けて、床に落ちたわ。それでも彼女は気づかずに、「はあい」って返事をするだけ。  その横顔がね、明らかに十代くらいにしか見えないの。いくら何でも変よ。しわなんて全くないし、肌だって赤ん坊みたいにピカピカしてる。  それでね、名前を呼ぶたびに、そして彼女が返事をするたびに、どんどん若返っていくのがはっきりとわかったの。  違うわよ、起こそうとしたの。だって、いくら呼んでも生返事だけで反応がないんだもの。  でも、そんなことを続けているうちにどんどん子供に近づいていく彼女に、気味が悪くなっちゃって。怖くなって会計だけ済ませて先に帰っちゃったわ。  その後?いえ、会社に来なくなっちゃったから、全然知らないの。私もちょうど仕事が立て込んでたし。何週間か後に、旦那さんから辞めますって連絡が来ただけですって。なんか今どきっぽいわよね。そんなところまで若者ぶらなくてもいいのに。  ごめんごめん、話がずいぶんそれちゃったわね。 そう、だから人手が無くて忙しかったのよ。ううん、気にしてないわよ。招待されたとしても行けなかったと思うから。あなたもちょうど大変な時期だったしね。  そうそう、あなたの赤ちゃんね。うん、とってもいいと思うわ。可愛いし。  亜梨須ちゃん、ね。その名前、覚えておくわ。今度会えるのを、楽しみにしてるね。
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