商才

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商才

ある富豪には三人の息子がいた。長男は話術に優れ、次男は飛びぬけた頭脳を持ち、三男は図体ばかり大きかった。富豪は三人を部屋に集めると、こう言った。 「息子たちよ、わしもそろそろ引退を考えている。よって、三人の中でもっとも商才に優れたものに家督を継がせようと思う。これからお前たちに石を渡す。ただの石ころにもっとも高い価値をつけられたものが、わしの跡継ぎだ」  富豪は道端で拾った三つの石をそれぞれに渡し、街へと送り出した。  最初に戻ってきたのは長男だった。彼は石の代わりに分厚く膨らんだ封筒を持って帰ってきた。 「私はあの石を、金運を呼び込む不思議な石だと言って売りつけました。どんな怪しい話でも、私にかかれば信じ込ませるのは簡単なことです。おかげでこんなに高値がつきました」  次に帰ってきたのは次男だ。彼は封筒に収まらないくらいの札束を持って帰って来た。 「私はあの石を、有名画家のキャンバスとして売りつけました。もちろん画家には報酬を払い、一つの作品として仕上げています。経費をかけてはいけないという決まりはありませんよね?おかげで好事家が大層な値段で買ってくれました」  最後に帰ってきたのは三男だ。彼は石の代わりに、アタッシュケースにいっぱいの札束を持って帰って来た。富豪と二人の兄は驚いて、間抜けの三男がどうやって石を売りつけたのか問い質した。 「なあに、簡単なことさ。銀行から出てきたばかりの年寄りを待って、石を振り上げて『いくら出せる?』って聞いただけさ」
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