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俺が「島」に来てから一月が過ぎた。森の木々は赤や黄色に染まり、風も冷たさを増してきた。いよいよ秋の始まりだ。
港から東に向かって道なりに、分かれ道を右に、砂浜が見えたら坂を登って、その上にある大きなシュロの木の横。
赤い屋根、白い壁、茶色の扉。それが父さんの診療所。そして今は、俺たちの家。
「じゃあな! 」
「お世話様でした」
ウツボのニィダとオトヒメエビのイン。二人は今日、住処の潮溜まりで見つけた手鏡を、さもさも珍しそうに持ってきた。
「あたしたちじゃ使わないし、あんたが持ってた方がいいだろ? 」
ということで、半ば無理やり押し付けられた。何だかんだ使えそうだから、ありがたく頂いておいたが。
「最近いっぱい来るね! 」
俺の隣に立つ少女はノア。元はハンドウイルカ。この「島」の光を浴びて、ヒトの姿を得た。銀色の髪に白いシャツ、灰色のベストと黒いズボン。首から下げたボトルメールは、ノアの宝物だ。
ここ数日、診療所を訪れる生き物が増えてきた。一昨日はセグロカモメのクル、昨日はラッコのヒュウラ。そして今日はインとニィダ。
単に喋りに来たり、ヒトの道具を拾ったり。やって来る理由は様々。だが皆共通して、俺に話したいことがあるようだった。
「カイさんも人気者ですね。やっぱり頼りになるからでしょうか? 」
ふわりと降りてきたのはシロカツオドリのアオイ。診療所の屋根に落ちてきたことで俺たちと出会い、一緒に旅をした後、ここで暮らすことになった。
「ふふん、カイは凄いもんね。なんでも知ってるし、料理もできるし! 」
随分と過剰評価されている。なんでもは知らないし、料理だって父さんとシオリさんに教わったものしか出来ない。まぁ俺に出来る事なら、可能な限り協力するが。
「料理……そうだ、今日のお昼、どうしますか? 」
「もう秋だからな。折角だし、秋の味覚でも探しに行くか」
「「あきのみかく? 」」
揃って首をかしげる二人。
「食材は、一番美味い季節ってのがあるんだ。秋に美味いものと言えば、そうだな……」
折角だし、ノアとアオイが好きなものがいいだろうか。
「二人とも、サンマ好きか? 」
「「サンマ!? 」」
揃って目を輝かせる二人。姉妹みたいだな。
「三匹取って来てくれ。料理するからさ」
「うおー! 」
「お任せ下さい! 」
そして海に向かって駆け出す。ノアは砂浜に着くと大きくジャンプして飛び込み、アオイは背中から大きな翼を生やし、空に舞い上がった。
どちらも魚を取るのが得意な生き物だから、きっとすぐに終わるだろう。(近くにサンマがいれば、の話だが)
ではその間、俺は山の幸を取りに行くか。
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