【2】声

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「トゥぺさん右! 」 「おうよっ! 」  眩い電撃が棘だらけの腕に命中する。その隙にユナが飛び出し、 「こっちだよー? 」  ユナの気の抜けた挑発に反応したのか、スイカイはゆっくりと進路を変更する。イソギンチャクの森に向かい、ズルズルと前進を始めた。 「アオイ! スイカイの様子は? 」 「イソギンチャクに向かっています! 他のスイカイは見当たりませんっ! 」  よし、上手くいっている。 「見えてきた? あれでしょ? 」  隣を走るユナの先に、ハタゴイソギンチャクが見えた。あの景色には見覚えがある。俺たちがフィリーに出会った場所だ。 「気をつけろ! 左から来るぞ! 」 「わかった‼︎ 」  振り下ろされた腕の棘の隙間。そこを上手く蹴り飛ばすノア。   「そろそろだ。気をつけろ‼︎ 」  気をつける相手はスイカイだけではない。イソギンチャクもだ。  一応あれも肉食動物。近づきすぎると、俺たちがイソギンチャクに捕まってしまう可能性がある。ギリギリまで引きつけたら離脱しなければ。 「みんな大丈夫⁉︎ 」 「あぁ。後は頼む! 」 フィリーはうんと頷くと、ハタゴイソギンチャクの上に立つ。そして大きく手を振りながら「来い‼︎ 」と叫んだ。 それに気づいたのか、スイカイは速度を更に上げて突進する。辺りの小さなイソギンチャクを容赦なく蹴散らし、砂を巻き上げ、透明な棘をギラギラ光らせながら。 「始まったな」 トゥペさんが呟く。スイカイは腕を持ち上げ、ハタゴイソギンチャクにのしかかる。そして体の下から何かを出した。 「何ですかあれ⁉︎ 」 「胃袋だ。ヒトデは口から胃袋を出して、餌に押し付けて消化しちまう」 空から降りてきたアオイに軽く説明。 「えっ⁉︎ フィリーは大丈夫なの⁉︎ 」 心配するノア。まぁ確かに、触れてしまったら消化されるからな。 ただし胃袋は体の中身。それをさらけ出しているということは、同時に攻撃のチャンスでもあるわけで。 「お願い、僕の家! 」  ハタゴイソギンチャクの触手から飛び出す無数の刺胞。それがスイカイの胃袋に突き刺さった。
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