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スイカイの腕を斬り落とした俺は、急に右半身の重さに負けてバランスを崩した。そして情けない悲鳴をあげながら、砂の上に叩きつけられる。
「カイさんっ⁉︎ 大丈夫ですかっ⁉︎ 」
フィリーを抱えたアオイが降りてくる。全身が痛い。体に力が入らない。返事をする力もない。
「僕は大丈夫だから。早くカイを‼︎ 」
「わかってます‼︎ カイさん、運びますよっ⁉︎ 」
アオイの腕が俺に触れる。その時、俺の視界に映ったのは衝撃だった。
巨大なハタゴイソギンチャクの、猛毒の針による抵抗。それをいとも簡単に乗り越え、スイカイがイソギンチャクを飲み込み始めた。
魚を麻痺させるほどの力を持つハタゴイソギンチャクの毒。倒すのが無理でも、動きを止めるか撃退するくらいはできると思っていたのに。
「嬢ちゃん下がれ! 作戦は失敗だ。離れるぞ! 」
「アオイお姉ちゃん、逃げよ? 」
「スイカイは私たちが止めるから! 」
ノア、ユナ、トゥぺさんが駆けつける。その間もスイカイは、ごぼり、ごぼりとイソギンチャクを飲み込んで行く。
透明な体の中に肌色の触手が見える。イソギンチャクは淡い光を放ちながら、ゆらゆらと揺らいで飲まれていく。
「やべぇぞ。あれを食っちまったら……」
トゥぺさんが吐き捨てる。スイカイの体内から光の粒が溢れていく。
そして眩い光がぱっと広がった。俺たちは思わず目を瞑った。
「嘘……」
次にノアの声が聞こえた時、俺たちの目の前には悪夢がいた。
そこにいるのはスイカイ。一回り大きくなったオニヒトデ。しかしそれは更に異質な姿に変わっていた。
全身から出た毒の棘。その隙間を埋めるように生える、吸盤のような無数の触手。
オニヒトデとハタゴイソギンチャク。二つの猛毒の生き物を模倣したスイカイが、そこにはいた。
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