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全身に力が入らない。口は動いても息が漏れるだけ。声すら出せない。
あぁ、この感覚は覚えている。小石平原でティトと別れた後、足が動かなくなって倒れた。あの時と同じだ。
足の力が徐々に抜け、目の前が暗くなって行く。あの時は俺一人だったが、今回は生き物達も一緒。それに目の前には巨大なスイカイ。今度こそ絶体絶命。
「アオイ、早く飛んで‼︎ 」
「うぐぐ……駄目ですっ、カイさんが重くなってる……⁉︎ 」
「鳥の嬢ちゃん、あんたの『光』も限界だ! 大分消耗してるだろ⁉︎ 」
「スイカイ来る⁉︎ 早く逃げて⁉︎ 」
せめてノア達は逃げればいいのに、どうしても俺を置いて行こうとしない。
だがスイカイを倒すのは無理だ。イソギンチャクの力を得て強化された以上、もはや俺たちが敵う相手ではない。
トゥぺさんの電気は動きを止めるので精一杯だし、ノアやユナは近づかないと攻撃できないから、毒に犯される可能性が高い。アオイとフィリーは戦えないし、俺は戦力にすらならない。
せめて皆に逃げろと。それだけでも伝えられれば。でも口を開いて声を搾り出そうとしても、出てくるのは小さな呻きだけ。
その間にもスイカイはどんどん迫ってくる。透明な棘と触手をうねらせ、俺たちを飲み込もうと腕を持ち上げて。
止めようとしたノアもアオイも、トゥぺさんもフィリーも。呆気なくスイカイの突進に弾き飛ばされた。残ったのは俺だけ。動かない、手頃な餌が一人。
……食べられたら、俺もスイカイの一部になってしまうんだろうか。生き物達を襲う怪物になってしまうのだろうか。
それは嫌だな。でもそれを避けることもできない。体が動かない。足が動かない。そしてもう、何も見えない。
ノアの叫びが、アオイの悲鳴が聞こえた。そして俺の体は押し潰された。
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