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「むぐむぐ」
もう一つカキを採ってやろうとしたら、「ユナ行ける」と、自分で跳んで採ってしまった。そして今、むぐむぐ言いながら食べている。
「……始めての味? 不思議なもの食べるんだね? 」
少し齧って捨ててしまった。口に合わなかったのだろうか。
「それで、あなた誰? ここで何してるの? 」
ユナという少女は尋ねる。何だか不思議な喋り方。
「俺はカイ。カキ……この木の実を取りに来た。あんたは? 」
「ユナはユナ? ダンダラカマイルカ? 」
ダンダラカマイルカ。南極圏などの冷たい海で暮らしている、小さなイルカの仲間。
なるほど。確かに外見はノアに似ている。近い種類の生き物だと、服装も似た物になるのだろう。
「崖の向こうに戻りたいんだが……連れて行ってくれないか? 」
小さくてもイルカだ。俺を運べないだろうか。
「ん? ユナ頑張る? 」
ぐっと拳を握り、体の前でガッツポーズ。良かった。これで診療所に戻れる。
「じっとしてて? 『光』使うよ? 」
ユナはそう言うと、俺の腰をぎゅっと掴んだ。
体が地面を離れ、柔らかな浮遊感に包まれる。続いてズンと重みを感じれば、既に体は地面に戻っている。振り返ると、崖の向こうにはカキの木。俺たちは反対側に戻っていた。
「ん? これでいい? 」
「助かったよ。ありがとう」
……そうだ。せっかく助けてもらったから。
「良かったら、うちに来ないか? サンマがあるんだ」
「サンマ? 」
おぉと息を漏らし、目をキラキラ輝かせる。注文したのは三匹だが、俺の分をユナにあげれば良いだろう。
「着いて来てくれ。すぐそこだ」
ん、とユナは頷くと、俺の後に続いてぴょこぴょこ歩く。一歩進むたびに「サンマ、サンマ」と呟いているが、そんなに好きなのか。これは腕を振るって料理しないとな。
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