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時計の針が3時を示す。
生徒たちは、徐々に教室から姿を消す。
私は、職員室前に設置されている「落し物コーナー」のダンボール箱の前に立つ。
無造作に入れられている物を物色するが、探している花柄のポーチはなかった。
この世の終わりかと言うように落胆していると、後ろから誰かに肩を叩かれた。
気鬱な面持ちで振り返ると、下津くんが首を傾げて立っていた。
「落し物コーナー……探し物でもしてんの? 」
「えっと、これはですね……まぁ、はい 」
バレッタを無くしてしまったなんて知られたくなくて、私は曖昧な返事を返す。
彼は、未知の物を見るような眼差しを送っている。
「へー、こんな箱あったんだ。 みんな結構落としてんなー。 ベルトにメガネ……? 」
彼は私の横で、箱の中身を探り始めた。
男子の冒険心をくすぐるのか、意外と楽しそうだ。
ポーチは、手のひら程のサイズはあるため、落ちていたらすぐ分かる大きさだった。
これだけ探しても見つからないなら、似ているバレッタをしていた瀬崎さんにも、聞いてみる価値はあるかもしれない。
「そーいえば、湊と何かあった? 」
ーー2人で並ぶ姿。 約束事。
昨日の光景が脳裏を過ぎる。
張り裂けそうな胸を抑えて、私は小さく頷いた。
私が入り込む隙間なんてなかった。
でも、逃げるように帰ってしまったのは、良くなかったと思う。
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