episode.5 宣戦布告

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「はい、気をつけてね 」 そう言って、バレッタを差し出したのは、湊くんだった。 私は驚倒(きょうとう)した顔で彼を見た。 瀬崎さんも瞠若(どうじゃく)している。 「あ……りがとう 」 私が手を伸ばすと、すかさず瀬崎さんが彼の手を握った。 私は、思わず手を引っ込める。 「やだぁ、湊くん! それ沙絢のだよ? 」 彼女は甘えた声で艶美(えんび)な笑みを浮かべながら、湊くんからバレッタを取る。 彼は、「そうなの?」と目を細めて笑った。 恐らく、私の物だと思うけど、確証がないから何も言えなかった。 「それ、可愛いね。 確かフィル・ルージュだよね? 」 「さすが湊くん、知ってるんだねー♡ 」 「この前、音羽へ行った時に、たまたま見たんだ 」 親しげに会話を始められ、私は肩身が狭くなった。 まるで、私は空気のような存在になっている。 「音羽にもあるんだね。 沙絢は、近いし杠葉店しか行ったことないなぁ♡ 」 「じゃあ、それも杠葉で買ったの? 」 「そうよー♡ フィルって、可愛いくて種類多いからいつも迷っちゃう 」 仲睦まじい会話を蚊帳(かや)の外から聞く。 ただ、虚しくなるだけだった。 今のうちに、消えた方がいいかもしれない。 「じゃあ、それは結奈ちゃんのだね 」 思いも寄らない彼の言葉に、場が一瞬シーンと静まった。
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