125人が本棚に入れています
本棚に追加
/227ページ
「はい、気をつけてね 」
そう言って、バレッタを差し出したのは、湊くんだった。
私は驚倒した顔で彼を見た。
瀬崎さんも瞠若している。
「あ……りがとう 」
私が手を伸ばすと、すかさず瀬崎さんが彼の手を握った。
私は、思わず手を引っ込める。
「やだぁ、湊くん! それ沙絢のだよ? 」
彼女は甘えた声で艶美な笑みを浮かべながら、湊くんからバレッタを取る。
彼は、「そうなの?」と目を細めて笑った。
恐らく、私の物だと思うけど、確証がないから何も言えなかった。
「それ、可愛いね。 確かフィル・ルージュだよね? 」
「さすが湊くん、知ってるんだねー♡ 」
「この前、音羽へ行った時に、たまたま見たんだ 」
親しげに会話を始められ、私は肩身が狭くなった。
まるで、私は空気のような存在になっている。
「音羽にもあるんだね。 沙絢は、近いし杠葉店しか行ったことないなぁ♡ 」
「じゃあ、それも杠葉で買ったの? 」
「そうよー♡ フィルって、可愛いくて種類多いからいつも迷っちゃう 」
仲睦まじい会話を蚊帳の外から聞く。
ただ、虚しくなるだけだった。
今のうちに、消えた方がいいかもしれない。
「じゃあ、それは結奈ちゃんのだね 」
思いも寄らない彼の言葉に、場が一瞬シーンと静まった。
最初のコメントを投稿しよう!