episode.1 出会いは突然に

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帰宅後の部屋。 鞄の整理をしながら、貰ったクッキーを手にして、また頬を緩めてしまう。 顔が崩れてしまわないように、その可愛らしいクッキーをそっと頬張った。 ふわっとバターの香りが鼻腔を燻り、後からほんのり甘みが押し寄せてきて、最高においしかった。 明日、藤波くんも受け取ってくれるといいな。 話したことがほとんどないから、変に思われないか少し不安ではある。 頑張ろうと、自分に言い聞かせた。      *   *   * まだ薄暗い空の中、いつもより早く目が覚めた。 日が昇ってからも、胸がそわそわと落ち着かない。 渡すタイミングを逃した朝の電車、騒がしい昼休み、常に心ここにあらず。 放課後の段取りや台詞ばかり考えてしまって、大好きな音楽の授業も集中出来なかった。 私は7組の理系クラスで、藤波くんは4組の文系クラス。 理系と文系の普通科では、階が別れている為、いつ教室を出て行くか分からない。 下校のチャイムが鳴ると、すぐに廊下へ出て、上の階へと足を急いだ。 今日に限って、先生の話がやたら長く、いつもよりも終わる時間が遅かった。 息を切らしながら、4組の前に立つ。 目を凝らして、藤波くんを探したが、彼の姿は見当たらなかった。 もう、帰っちゃったのかな。 チラチラと周りの視線を感じて、私はうろたえながら足早にその場を去った。 文系には、派手な生徒が多い。 あそこの空気を吸うだけで、緊張で目眩がしそうだった。 肩を下げて下駄箱へ向かうと、藤波くんが玄関を出て行く後ろ姿が目に入った。 「待って!」と、心の中で叫びながら、慌てて彼の背中を追った。
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