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帰宅後の部屋。
鞄の整理をしながら、貰ったクッキーを手にして、また頬を緩めてしまう。
顔が崩れてしまわないように、その可愛らしいクッキーをそっと頬張った。
ふわっとバターの香りが鼻腔を燻り、後からほんのり甘みが押し寄せてきて、最高においしかった。
明日、藤波くんも受け取ってくれるといいな。
話したことがほとんどないから、変に思われないか少し不安ではある。
頑張ろうと、自分に言い聞かせた。
* * *
まだ薄暗い空の中、いつもより早く目が覚めた。
日が昇ってからも、胸がそわそわと落ち着かない。
渡すタイミングを逃した朝の電車、騒がしい昼休み、常に心ここにあらず。
放課後の段取りや台詞ばかり考えてしまって、大好きな音楽の授業も集中出来なかった。
私は7組の理系クラスで、藤波くんは4組の文系クラス。
理系と文系の普通科では、階が別れている為、いつ教室を出て行くか分からない。
下校のチャイムが鳴ると、すぐに廊下へ出て、上の階へと足を急いだ。
今日に限って、先生の話がやたら長く、いつもよりも終わる時間が遅かった。
息を切らしながら、4組の前に立つ。
目を凝らして、藤波くんを探したが、彼の姿は見当たらなかった。
もう、帰っちゃったのかな。
チラチラと周りの視線を感じて、私はうろたえながら足早にその場を去った。
文系には、派手な生徒が多い。
あそこの空気を吸うだけで、緊張で目眩がしそうだった。
肩を下げて下駄箱へ向かうと、藤波くんが玄関を出て行く後ろ姿が目に入った。
「待って!」と、心の中で叫びながら、慌てて彼の背中を追った。
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