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彼らと多少の距離はあるが、動けば確実に見つかってしまう。
尋常じゃない心臓音を鳴らしながら、つま先で屈んでいる私の足は、ぷるぷると震え出していた。
「藤波、瀬崎沙絢のこと呼び捨てしてなかった? どうゆう関係だろう。 もしかして、付き合ってたってオチ? 」
比茉里ちゃんが蚊のように囁く声を聞いて、私はふとある場面を思い出す。
ーーあんたって、沙絢のこと好きなのか?
そういえば、体育祭の時も瀬崎さんを名前で呼んでいた気がする。
「沙絢、とりあえず落ち着けって 」
「ちょっと、イヤ! 触らないでよーっ! 」
瀬崎さんの嫌がる声が準備室に響き、私は気が付くと机の下から飛び出して、2人の間に割り込むように立っていた。
彼らより、ここにいる自分自身が一番驚いている。
「あ、あの……嫌がってるじゃないですか。 いくら好きだからって、そ、そうゆうのはやめた方が……いいと思います 」
徐々に小さくなっていく声を振り絞りながら、小刻みに震える足を踏ん張る。
小心者のくせに、思わず出て来て今更になって怖気付いている。
今すぐにでも逃げ出したい。
「えっと……好きって誰が? 」
気の抜けたような彼の声に、加速していた私の鼓動は少し緩やかに下がる。
「あの……藤波くんが? 」
「誰を? 」
「瀬崎……さんを? 」
なんとも言えない微妙な空気に、比茉里ちゃんが隠れている机を見て助けを求める。
彼女は気まずそうな表情をしながら、お笑い芸人のように「どーもー」と出て来た。
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