124人が本棚に入れています
本棚に追加
波打つ鼓動を高鳴らせて、徐々に距離を縮めていく。
今、周りに生徒はほとんどいない。
彼の前に、知らない女子が1人いるのみ。
「あ、あの……ふ、藤波くんっ! 」
私は、蚊の飛ぶような声を振り絞って、彼を呼び止めた。
振り返った彼の表情は、驚いたように目が強張っていた。
「あの……これ、部活で作りました。 良かったら、貰ってください 」
震える手で紙袋を差し出す。
藤波くんは、「あ、あぁ……」と小さな声を出すと、鼻を触りそれを受け取った。
とにかく、その場から早く逃げ去りたくて、私は比茉里ちゃんが待つ校舎へ一心不乱に走った。
彼女に渡せた報告をしたら、一気に全身の力が抜けた。
帰りの電車も家へ着いてからも、胸のドキドキは治らなかった。
受け取ってもらえた喜びで溢れて、それだけで満足していた。
少し驚いていたようだったけど、一生懸命心を込めて作って良かった。
高校生活最後の、良い思い出になった。
ーーその淡い気持ちは、1日も経たないうちに、呆気なく崩れ落ちた。
最初のコメントを投稿しよう!