episode.8 恋セヨ乙女たち

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その目に見つめられると、女の私でもドキッとする。 「進展と言う程のことは……ないです 」 少し視線を下げると、彼女は大きな息を漏らす。 「 湊くんの優しさって、たまに罪だと思うのよね 」 天井へ視線を上げて遠い目をしながら、瀬崎さんはふっと笑みを浮かべた。 「あの笑顔で優しくされたら、誰でも自分は特別かもって錯覚するわ。 湊くんは、誰とも付き合わないのに 」 その瞬間、私は言葉を失った。 心臓が止まったように無反応だった私に、彼女は耳に内巻きロブをかけて薄笑いを浮かべた。 「知らなかった? ただカッコいいから好きかもーって程度なら、早めに諦めた方がいいわ 」 「そんな簡単じゃないです。 そんな軽い気持ちで、湊くんを好きなんじゃない 」 ギュッとスカートを握って、私は唇を噛み締める。 藤波くんの事で辛かった時、コンテストで入賞を逃した時、バレッタを紛失して落ち込んでいた時、いつも私を暗闇から連れ出してくれたのは湊くんだった。 いつの間にか、もっと彼の笑顔を見ていたい、もっと彼を知りたいと思うようになっていた。 私にとって、湊くんは特別な存在なの。 何もしないで諦めるなんて、簡単に出来るわけない。 「ふーん、意外と本気なのね。 いつから好きなの? 」 「それは、まだ最近だけど…… 」 「そう。 じゃあ、長期戦になる覚悟してるの? 」 彼女の鋭い瞳に、一瞬(ひる)みそうになった。
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