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まるで反応を試されているみたい。
「振り向いてもらえないって、分かってるのに。 優しくされる度に、〝もしかしたら〟〝いつかはきっと〟って、ずっと思いながら生きて来てるの。 パッと出の人に、この思いなんて分からないわ 」
呆れのようなため息をつき髪をかきあげると、彼女は小さく笑みを浮かべる。
「湊くんを好きになるってことは、いつまで彼を思い続けられるか……自分との戦いでもある 」
彼女の瞳はどこか切ない色をしていた。
胸がキュンと狭くなる。
長く片思いをする気持ちは、少しくらい分かっているつもり。
報われない恋だと分かっていても、想ってしまう衝動は理解してるつもりだった。
「好きでいることに、時間なんて関係あるのかな 」
藤波くんを漠然と想っていた2年間より、湊くんを好きになった数ヶ月間の方がきっと深い時間なんだと思う。
想いの丈は時間と比例しない。
その時、明智さんが瀬崎さんを引き連れてトイレへ向かった。
隙を見たように、比茉里ちゃんが私のシャツをグイグイと掴む。
「せっちー、樹って呼び捨てにしてた。 あれは結構な仲だよ 」
相当気にしているのか、闇が顔に浮かび上がっている。
声のトーンもいつもより低い。
「下津くんのこと、好きだったんだね。 全然気付かなかったよ 」
「気になるとは思ってたんだけど、せっちーの出現で改めて気付いたって言うか。 結構、好きなのかもしんない 」
頬を紅潮させてバツが悪そうに視線を泳がせる彼女を、私は初めて目の当たりにした。
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