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「比茉里ちゃんは、比茉里ちゃん。 小雪は、小雪って顔してんじゃん 」
「ちょっと、何が言いたいわけー? 」
チャラけて笑う下津くんに、明智さんがすかさず突っ込みを入れる。
「〝ちゃん〟は似合う似合わないがあるだろ 」
彼らの親しげなやり取りを、比茉里ちゃんはどこか切なそうな目で見つめていた。
これも、彼女が初めてする表情だった。
胸の奥が、キュッと狭くなって苦しくなった。
「さっきの話…… 」
スッと隣りに現れた瀬崎さんが、独り言のように口を開く。
黙って彼女の端正な横顔に目を向ける。
「好きと時間は比例するわ。 思いの丈が長い程、思いは重く募るでしょ 」
何も反論せず、私は黙ったまま地面に視線を向けた。
「と言うのは、ただ沙絢がそう思いたいだけ。 そうでもしなきゃ、自分が報われないでしょ。 でも、鹿島さんを否定するような事を言ったのは悪かったと思ってるわ 」
彼女の思いがけない言葉に、私は呆然とする。
涼しい夜風が吹いて、夏の夜の匂いを運んでる。
「何か進展あったら教えなさいよ。 まぁ、沙絢の報告の方が先になるでしょうけどね 」
「わかりました。 お互い頑張りましょう 」
私が純真な笑みを溢すと、彼女はふんっとしながら小さく唇を緩めた。
美人で絡みにくい彼女の印象が、今日話してみて少しだけ変わった。
私と同じように恋をしている、ただの女の子なんだ。
「そういえば、周響子と知り合いよね? 」
響子とは、周部長……もとい、周さんの下の名前。
ゆっくり頷きながら、私は頭に疑問符を浮かばせる。
「その人に聞いて見るといいわ。 周響子って、同中だったみたいだから……湊くんたちと 」
知らなかった。
彼らの秘密を知るもう1人の生徒は、周さんだったんだ。
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